レムデシビルとヒドロキシクロロキン 5

前回までは、治療薬としての効能の賛否、ヒドロキシクロロキンの詳細、レムデシビルの抗ウイルス薬としての側面、インフルエンザウイルスとの違いなどをみてきました。いろいろわかってきたこともあるけれど、そもそも・・・。という気がするのは、いつになったらコロナウイルスの治療薬は決まるの? 間に合うの? という疑問。ただ、ここは粘り強く臨床の現場に対処してもらうしかないのかな、と思いました。そう思ったきっかけがあるので、考えたヒントを共有します。

ツイート数からみる現況

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レムデシビルとヒドロキシクロロキンのツイート数

レムデシビルは日本語においては「24時間で60件」英語においては「2時間で40件」だったのに対し、ヒドロキシクロロキンは日本語においては「24時間で200件」英語においては「2時間で450件」という数字(8月10日13時現在)。こうしてみると、ヒドロキシクロロキンの数字があまり変動せず、レムデシビルの数字が減少に転じたと判断できます。

理由としては、ヒドロキシクロロキンの賛否両論の盛り上がりがありそうです。現段階ではどちらの論者が優勢とも判断しかねるのですが、やはり米国では3月からの大統領の肝いりで進められたFDA公認の手続きが一転覆されるという混乱が生じたこと、その後英国でのヒドロキシクロロキン投与治療の重症化リスクを指摘した学術雑誌の「撤回」騒ぎもあって、とにかくややこしいのですが、話題には欠かないという点で、レムデシビルの前に出たようにみえます。

ヒドロキシクロロキンはほんとうに効くのか?

英国の医学雑誌としてまず名前が挙がる「ランセット」。今回の撤回論文は、いったいなんだったのでしょうか。
むずかしい内容で、とても全部を網羅するまで至らず申し訳ないのですが、少し見えてきたかな、という部分をかいつまんで共有します。

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クロロキン投与単独群と併用群の内訳

この表は、論文で事例として挙げられた、9万人あまりの感染者への治療と、その後の経過の一部です。どの一部か、というと、1万4千888人の方にクロロキンあるいはヒドロキシクロロキンの投与がなされたので、その内訳です。両方の治療薬を投与されなかった8万1千144人の方に対して、事後分析するなかで重症化リスクを特定することを目指して行なわれた研究と思われます。数字をみると、マクロライドとの併用で投与を受けた方の人数が多くなっています。
また、死亡率をみると、投与を受けなかった8万1千144人の方では9.3%だったのに対し、ヒドロキシクロロキンの単独群では18%ほど。ヒドロキシクロロキンと併用でマクロライド系抗生物質を投与した患者が23.8%ほど。これをみると、どうもヒドロキシクロロキンは危ないのでは? と判断してしまいそうです。
ただ、この数字をさらにみていくと、クロロキンの単独群は16.4%、クロロキンとマクロライドの併用は22.2%、ということがわかります。一定の要素としては、クロロキン系が影響した可能性もありますが、マクロライドを併用した場合に高い割合のリスクが示唆されていることも、一定の要素といえそうです。
上の数字から、類推できることはさほど多くはないのですが、はっきりいえることがあります。それは、これが医学雑誌ならば、複数の視点から精査したうえでこの数字を見なければ学術調査の前進には役立たないということです。病院における治療の成功に役立つ、ということと、学術調査の前進に役立つ、ということは違う意味があります。それは、時間に対する考え方です。
病院での治療は時間との闘いでもあります。ウイルスの増殖を、薬物で阻害することによって、健康な身体であれば免疫機能がウイルスを抑え込めるという状態に近づける。それができないのが感染した方なのですが、いずれにしても時間がかぎられる。
学術調査には時間をかけることが正義になる場合がある。というより、そうしなければ正義にならないという事情があります。
新薬の誕生には10年から15年かかることがわかりました。でも、10年も待っていられないという場合もあって、それがいまの新型コロナウイルスという社会現象の進行。

マクロライドって何?

ヒドロキシクロロキンとともに投与されたマクロライド系抗生物質

論文をさらに読み進めると、具体的に名前が出てきました。

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Lancet誌に記述された、マクロライド系抗生物質

クラリスロマイシンと、アジスロマイシンです。

これらの抗生物質を、ヒドロキシクロロキンと組み合わせるのが危険?

そう読み取れてしまう論文が、撤回されたのはある意味では幸運だったのかもしれません。
というのは、4月には南米でこれらの併用によって治療が奏功したとする研究論文も出ていました。
ann-clinmicrob.biomedcentral.com


学術調査の前進には、やはり複数の視点からの精査が役立つ。両方の論文を全方角から比較検討している暇はないかもしれません。それでも、人類が感染症を克服してきた過程をみるかぎり、時間をかけることが克服への近道だったことは、指摘しても差し支えないはずです。
というわけで、マクロライドとの併用が果たして重要な転機をもたらすのか、というあたりで今回は終わりにします。

参考:ヒドロキシクロロキンと、アジスロマイシンの関心の向き

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ヒドロキシクロロキンと組み合わせて検索されたワード
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アジスロマイシンと組み合わせて検索されたワード

ヒドロキシクロロキンと組み合わせて検索されるワードとしては、Yahooにおいては「通販」「コロナ」「製薬会社」が、Googleにおいては「通販」「副作用」「ジェネリック」とあり、いずれも通販への関心が高まっていることが伺われます。
アジスロマイシンと組み合わせて検索されるワードとしては、Yahooにおいては「錠250mg」「効果」「コロナ」Googleにおいては「コロナ」「通販」「肺炎」とあり、いずれも「コロナ」への併用が有効なのか、きわめて高い関心が見受けられます。

あとがき

抗生物質の効能については、さまざまな研究があるだけでなく、一般にも市販され、それを通販で買い求める方の需要がひじょうに強くあるようです。これを、ヒドロキシクロロキンとの組み合わせに照らし合わせて考えることは、今後のCOVID-19世界の天下布武というべき時代に、少しは意味をなすのかもしれない、と思いました。レムデシビルとヒドロキシクロロキンのレースは微妙な課題設定ですが、意外と掘り下げるところはまだ残っているのかもしれません。
追記:「クロロキン投与単独群と併用群の内訳」画像に一部数字の誤りが見つかり、その説明に該当する本文を訂正しました[20200811/21:55]。
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