レムデシビルとヒドロキシクロロキン10

前回は抗生物質の深堀りを進めました。アジスロマイシンが、ヒドロキシクロロキンとの併用で有効な治療結果を生んでいるとの研究も発表されて、ますます気になる抗生物質。では、たんぱく合成阻害薬であるマクロライド系抗生物質は、やはり現在の医療においては有望な抗ウイルス薬候補なのか?

インフルエンザに効くという点で、広範囲ペニシリンマクロライドは共通項があることがわかりました。
では、インフルエンザウイルスに効果があったマクロライドが、新型コロナウイルスにも効果を発するのか。
インフルエンザウイルスの増殖を阻害する薬品としては、「どこ」を阻害するかによって種類があって、出芽、脱殻、核酸合成といった感染サイクルの段階を考慮するとうまく理解できるようです。
核酸合成阻害薬としては、ファビピラビル(アビガン)が定評がありますが、今回の新型コロナウイルスに動員されたものの、レムデシビルやヒドロキシクロロキンにくらべて、やや旗色が悪いようです。

少し話を戻します。

リファンピシンの作用機序

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リファンピシン


抗生物質のなかで、核酸合成阻害薬としてはリファンピシンが挙げられます。リファンピシンは

RNAポリメラーゼに結合して、mRNAへの転写を阻害

という作用機序があります。

病原体の増殖を阻害できる一方、ヒトのRNAポリメラーゼには結合しにくいという性質から、大事な役割を果たしてきました。
とくに、結核への治療には定番とされて、20世紀にはヒトの死因の上位に並んでいたこの病気を、先進国にあっては相当に対策してきた部分があります。
リファンピシンが、結核に使われてきた。核酸合成を阻害する抗生物質
何か、ヒントがありそうな気が・・・。

RNAポリメラーゼについて少し調べてみました。

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RNAポリメラーゼによる転写


細菌の細胞が増殖するとき、

DNAの一部がほどける→複製

こういったプロセスが発生します。
こちらを阻害する場合は、同じ抗生物質でも、キノロン系の「ナリジクス酸」や「オフロキサシン」などがDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVに干渉して阻害する。
それに対し、RNAポリメラーゼは上にあるWikipediaの図のように、RNAが一本になっている、転写の過程を指し示しています。この、注釈にあるような、一本鎖というあたりがポイントかと思われます。「鋳型鎖」と「非鋳型鎖」のうち、鋳型鎖が転写の対象となる。
むずかしいですね。とにかく、リファンピシンはこのRNAポリメラーゼに結合する

リファンピシンと組み合わせて検索されたワード

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リファンピシンと組み合わせて検索されたワード

Yahooにおいては、「カプセル」「副作用」「空腹時 理由」が上位に、Googleにおいては「効果」「分類」「系」が上位に入っています。

「リファンピシン 結核

結核への対策に役立った核酸合成阻害薬が、ウイルスの増殖にも役立つということはないのだろうか・・・。

アビガンのことを調べたときにわかったことですが、副作用として催奇形性があって、妊娠している方には投与することが困難という事情がありました。
やはり、リファンピシンも副作用があるのですが、妊娠している方に投与できないのでしょうか。
少し調べてみると、どうやら相互作用が干渉しているのかな、と思いました。

リファンピシンは薬物代謝控訴であるCYP3A4の誘導を行うため、この薬物相互作用に対して注意を要する

https://ja.wikipedia.org/wiki/リファンピシン


そうすると、やはり単独で治療に足りるような病気がリファンピシンの出番ということになるのでしょうか。結核ハンセン病

新型コロナウイルスが流行して、死亡率が比較的高い地域と、比較的低い地域があることはすでに十分に伝わっている事実とは思います。しかし、その原因については、十分に伝わっているとは言えず、このように死亡率にへだたりが生じてしまうことも、COVID-19治療薬の特定が難航していることの理由のひとつかもしれません。
一部に伝わっているのは、BCGの接種が行われた地域において、死亡率が低くなる傾向です。これは結核の予防を意図した公衆衛生の取り組みですが、日本で死亡率が目立って低い推移をつづける要因として、BCGの存在感が強まってくれば、結核の治療に用いられるリファンピシンと、RNAポリメラーゼとの結合を通じてmRNA合成の阻害という作用機序をもつ同様な薬物が、やはり存在感が強まるのでは?
このあたりに、レムデシビルが先行している要因かもしれません。レムデシビルは、RNAポリメラーゼに干渉してウイルスの増殖を阻害する薬物ですから、結核治療薬として通用しているリファンピシンとの共通項があります。

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レムデシビルの作用機序

レムデシビルの作用機序をみると、RNA鎖の合成を終わらせるのか、突然変異を引き起こすのかは不明、だそうで、リファンピシンと通じるところがある一方、具体的には「どこ」を阻害するのか解明されるには至っていない。

その一方では、ヒドロキシクロロキンがアジスロマイシンと併用され、早期に投与された場合の顕著な効果も発表されています。
なぜ、ランセット誌の撤回論文では併用した場合の死亡率が目立って高い数字になったのか、撤回されたとはいえ、同様の治療結果が同時期に出ていて、やはりクロロキン類とマクロライド系が併用されるときの注意すべき点があることは容易に想像がつきます。

レムデシビルとヒドロキシクロロキン

レムデシビルは抗ウイルス薬、ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬とそれぞれの守備範囲があります。それがCOVID-19という社会現象のなかで、不思議なほどに近接してきた経緯を、歴史の偶然というか、ある種必然とも感じているのは、筆者だけではないと考えます。

あとがき

これらを読み解くことは、レムデシビルにしてもヒドロキシクロロキンにしても、COVID-19への治療薬としての地位を獲得するまで、大事な過程になると筆者は考えています。
次に考えて行きたいことは、RNAポリメラーゼと、mRNAへの転写というあたりになると思います。ウイルスのなかにあるのは核酸で、核酸のなかにあるのはmRNAへの転写という機能だからです。

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