ぼくにインターネットの世界を教えてくれたひと(1) 佐々木俊尚さんと「はてブ衆愚論」

佐々木俊尚さん。
リアルタイムで事実関係を把握して、すぐに文章という入れものに収めてしまう。しかも浅薄でなく、無責任でもない。そのような記事を書ける人にはほとんど出会ったことがない。
『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文芸春秋、2006年)『ネットvs.リアルの衝突 誰がウェブ2.0を制するか』(文芸春秋、2006年)は同類の新書とくらべて、圧倒的に秀逸だ。
そんな佐々木さんが『次世代ウェブ』で、「はてブ衆愚論」を紹介している。

 コミュニティが拡大すればするほど、<個人―コミュニティ>の相関関係が乏しくなっていくというのは、実のところWeb 2.0のソーシャルにとってかなり大きな問題になりつつある。
 たとえば「はてブ衆愚論」という問題が、そのひとつだ。「はてブ」とはソーシャルブックマークサービスの「はてなブックマーク」のことである。
 (中略)
 はてなブックマークは当初、技術者を中心にしたネット業界の人たちによって利用された。
 だがはてな知名度が上がり、それに応じて、はてなブックマークの人気が高まったのに従って、利用者も増えていく。ブックマークを行う母集団が大きくなっていったのだ。この母集団の増加は、果たして集合知をよりよくすることに役立つのか、それとも衆愚化してしまうのか?――という疑問は、いまやWeb 2.0の世界の最もホット、かつ重要なテーマになりつつあるように思われる。
 (中略)
 結局のところ、はてなブックマークでランキングされた「人気エントリー」が持っていた価値というのは、
「ネット業界の狭い世界の人たちがブックマークしていた」
 ということだったように思える。
 つまりは、一般のネットユーザーとは異なる狭いコミュニティの中から集合知を生み出していたわけで、だからこそ一般のニュースサイトとは異なる貴重なブックマークを抽出できたのだ。それゆえに、はてなブックマークのユーザーが増えて母集団が増えて大衆化していくと、一般ニュースサイトと同じようなブックマークが抽出されるようになるのは、当然の帰結である。

毀誉褒貶の激しい「はてなブックマーク」について、これほど短い文脈で語り尽くせるというのはどういうわけなのか。これが新聞記者だった人の底力なのか。
はてなブックマークとは、そのくらい扱いの難しいものだと思っている。
佐々木さんの文章に語ってもらえば、ぼくが付け加えるようなことはないような気がする。それなら、わざわざ紹介しなくても『次世代ウェブ』を読んでもらえばいいということになる。
それでも、はてなブックマークにまつわるあれこれを少し相対化するために、引用が目立つエントリであっても、情報をここに置く意味はあるのではないか。
佐々木さんの「当然の帰結である」という指摘がそのとおりで、これ以上言うべきこともないように思えるが、それでもひとこと付け加えるとしたら、
「それでもはてなブックマークはつづく」と言っておこうか。
大衆化しても、衆愚化しても、そこに人が集まるわけだから何かの役割はそこにあるはずだ。たとえ見たところ悪い方向へと進んでいたとしても、衆愚がさらなる衆愚を呼ぶ連鎖があっても、日が当たらない場所になって行っても、エリートが逃げて行っても、そこに人が集まって日々が進んでいけば、「それでもはてなブックマークはつづく」のだと思う。ぼくはいろいろなブログ・サービスを使ってみたが、結局ここに帰ってきて、いまはそれでよかったと思っている。ぼくが前にはてなに来たときは、はてなブックマークはまだなかった。
はてなブックマークが衆愚化したからべつのソーシャル・ネットワークの動きに注目が移る、というのは状況把握としては正確だし、評論家の取材がべつの方向へ向くのは仕方ない。「それでもはてなブックマークはつづく」のだと思う。
『次世代ウェブ』は副題である「グーグルの次のモデル」について佐々木さんが客観から外れないように気をつけながらも限りなく主観に近いビジョンを示した本だ。そのビジョンからはてなが外れてしまったのは残念だ。はてなブックマークについては、もう少し考えてみたい。

次世代ウェブ  グーグルの次のモデル (光文社新書)

次世代ウェブ グーグルの次のモデル (光文社新書)

佐々木さん、ありがとうございます。もう少し、考えつづけます。