ニコラス・カーの戦略、あるいは「けものみち」
今日は非常に興味深い記事につづけて出会った。CIOのピーター・カーワン記者。
- Clouds and Storms: Nicholas G Carr on cloud computing - CIO UK Magazine (04 August 2008 Peter Kirwan)
クラウド・コンピューティングを論じるニコラス・カーの戦略とは、と言えば要約のかわりになるだろうか。
この記者はニコラス・カーの人となりを深く読みこんでいる。わたしの知っている以上のことをたくさん教えてくれた。なんというか、アメリカ人のエリートが抱える途方もない重荷を一身に背負って、それでも腰砕けになったり、足の骨を折ったりせずに歩きつづけてきた人かなと思う。そのカーにインタヴューしたカーワンは東海岸在住のシリアル・アントレプレナーのようだ(参照)。
全体を通じてカーへの深い理解があり、おそらくは共感もあるのだろう。そのカーがカーワンに語ったことばが非常に印象深い。
“To be honest,” Carr tells me, “I’ve found that between speaking and writing I can make a living. So by avoiding consulting I think I can maintain my independence a little more clearly.”
彼のたどった道はアメリカのエスタブリッシュメントからの華麗な飛び立ち、と言ったら誉めすぎなだけでなく、誤解になるのだろう。何度も賛否両論の波紋を巻き起こした彼の著作や講演は、立身出世というよりはむしろ、ひざを砕かれるような重荷をいかにして安全にほどいていくか、一気に降ろしたら怪我をするような、なんだかギプスを外していくような不器用さがあるのではないかと思う。ハーヴァードで編集者をやっていたところから、いわば高速道路をおりて、けものみちを行く覚悟を決めてそこから孤独に歩いてきたのではないか。彼の自分をほとんどさらけ出さないで大きな注目を浴びるという手法は、あるいはアメリカの実業界に根付いた不文律を壊すのには、ちょうどよかったのかもしれない。彼がたどってきた経歴がハーヴァード、ひいては「ブリタニカ」百科事典という輝かしいものであればあるほど、そのちゃぶ台返しはたしかなものになる。誰も言い返せないものな。だが彼の語られないことばは、とにかく深いものがある。それだけは見逃さないでおこう、と思った。