「はてなブックマークは電車の中吊り」って本当?

はてなブックマークは電車の中吊り広告」ということを、どこかで聞いたのですが、これは実にうまいたとえだと思います。
ただ、中吊り広告というのは、なにかを売るための広告なわけで、この文脈でいえば、雑誌か新聞のようなものを売るというのが目的なはずです。そのために、お金を払って広告を出すのだとわたしは理解しています。電車に乗っている何人もの人が、共通して関心を抱き、「もっとくわしく」知りたいと思う。そして電車が駅に着いたら、降りた駅の売店などで、雑誌や新聞を買っていく。それによって、中吊り広告の「効果はあったなあ」と認められるのでしょう。
だとしたら、はてなブックマークは、なにを売るための中吊りなのでしょう。じっさい、はてなブックマークはなにかを売っているのか? 売るために、お金を払っているのか。
と考えると、これはちょっとややこしい話になってしまいます。
そもそも、はてなブックマークと中吊りは、基本的な環境設定がまったく異なるわけです。前者はインターネット上にあるように見える場であり、後者は電車の中に実際にある場です。しかも、開かれている場と、閉じられている場という違いがある。はてなブックマークは言ってみれば、どこでもいいわけですが、中吊りは電車の中でなければいけない。そういえば、駅には中吊りってないですね。スターバックスにもなかったような気がします。
はてなブックマークの独自性とは、そうなると、「どこでも読める中吊り」ということになるでしょうか。
というか、「中吊り」というのは中に吊るわけですが、べつに中に吊る必要もない。でもそこにいる何人かの人たちが、共通して関心を抱き、「もっとくわしく」知りたいと思う。考えてみれば、ふしぎな場です。こういう場っていうのは、ほかにいい例が思いつかないのですが、どうでしょう。
それで、はてなブックマークという「中吊り」によって、「効果があったなあ」と思う人は誰なのでしょうか。べつにお金を出して広告を出している人がいるわけでもない。「効果があったなあ」と思って、はてなにお金を払おうという人がいるわけでもない。いったい誰が、なんのためにその場を維持するのか。
と、「中吊り」という切り口で考えてみると、だんだん狭い路地に迷い込んだような気分になってきます。これはちょっとよろしくない。ちょっとカメラのズームを引いて、遠くから眺めてみるのがいいかもしれません。
広告という観点で見てみましょうか。
広告というのは、おそらく

  • 場所があって
  • 出す人がいて
  • 見る人がいて
  • 買う人がいる

ということによって成り立っていると思います。この4つの問題をうまく解いた人が、広告で「効果があったなあ」とホクホクするわけです。では、このなかで、いちばんかんたんに解けそうな問題はどれでしょうか。
中吊りの場合は、「場所があって」ではないかと思います。なにしろ電車の中に吊るわけだから、場所は決まっているし、何枚用意するのか、いつからいつまで吊っておくのかは、実際の数字に表れているはずです。そうしないことには、そもそも「中吊り」できないですよね。それによって広告を出す人の払うお金が決まってくるだろうし、その単価みたいなものも決まってくるのだと思います。「効果があったなあ」となるためには、主に「買う人がいる」というところで数字を見て判断するのかもしれません。雑誌が何冊売れたとか。でもこれは、実はいちばんむずかしい問題です。ほんとうに中吊りを見たから買ったのか、これは誰にもわかりません。買った人にも実はわからないかもしれない。
はてなブックマークの場合は、逆かもしれません。「場所があって」というのが、いちばんむずかしい問題かもしれない。インターネットの「この住所」というのは決まっているわけですが、それを見る人がインターネットの「その住所」にいるわけではなくて、いるように見えるだけだから、これは電車の中と一緒には扱えないと思います。何枚用意するのか、いつからいつまで吊っておくのか、というのも数字がはっきり出せないときている。「はてなブックマークの場のうえに、誰かが広告を出す」ということなら、これは数字で表せます。でもここの話は、「はてなブックマーク自体が広告」という話をしているわけですから、別個に考えるべきです。
はてなブックマークの場合、いちばんかんたんに解けそうなのは、逆に「買う人がいる」という問題ではないでしょうか。はてなブックマークからもし、なにかを買った人がいるとしたら、それは数字とデータではっきりと表すことができるはずです。インターネットというのは、顔が見えなくても、相手の存在を特定できる仕組みで成り立っているからです。変な気がするかもしれませんが、とにかくそうなっている。で、誰がいつ買ったのかを数字とデータで表すことができれば、「効果があったなあ」というのは、わりにすぐ判明するのではないでしょうか。言い換えれば、「買う人がいる」という要素を、定数化できる。
はてなブックマークが広告だとして、それによって「効果があったなあ」とホクホクする人が現れるのは、いいことだと思います。誰かが著しくイヤな思いをするとか、客を奪われたとか、そういうことがない限りは、いいことなのでしょう。もう一度くりかえしますが、「はてなブックマークの場のうえに、誰かが広告を出す」という話は、ここでは抜きです。「はてなブックマーク自体が広告」という話をしているわけです。
だとしたら、ホクホクする人は誰になるのでしょう。
ここで、「出す人がいて」という問題を解くことになります。これはなんというか、面倒くさい問題です。これがうまく解けたら、はてなブックマークはもっとおもしろい場所になると思うのですが、そうかんたんには解けない。面倒くさい問題です。頓知みたいな問題ですね。「はてなブックマーク自体が広告」なのに、「出す人」を特定せよと言われてもなあ、と困ってしまいます。
そもそも「はてなブックマーク自体」とは何なのでしょうか。いろいろなページへのリンクが集まっている場ですね。それで、人気なページが上位から表示されて、時間がたつと、だんだん変わって行く。それ「自体が広告」だとしたら、この「自体」は特定できない、集合体ということになります。言い換えれば、これを変数化できる。
たぶん、ここに大事なヒントがひそんでいるような気がするのです。
この「変数化できる」というのが、インターネットそのものの属性であって、わかりやすく言えば、「インターネットはどこにあるの?」という問いかけに対する答えはなくて、強いて言えば「変数化できる」と答えるしかない。どこにあるのかわからないけれど、どこかにはある。それが「変数化できる」ということです。
はてなブックマーク自体が広告」で、その「自体」を「変数化できる」とは、すなわち「出す人がいる」という要素も、「変数化できる」のだ。というのがわたしの命題です。
言っていること、わかりますか? 意味不明かもしれないですね。わかりにくかったらすみません。
「出す人がいる」という要素を、「変数化できる」
というのを、とりあえず覚えておいてもらえるといいと思います。で、わたしの主張があるとしたら、はてなブックマークの収益化には、ここに手を加えることがとくに効果的であるという主張です。
なにをいまさら、「出す人がいろいろいる」というのは当たり前じゃないか、と思う人もいるかもしれません。でもこれは意外と奥深いのではないかと思っています。さっき言ったとおり、いちばんむずかしいのは「場所があって」という問題です。でもこれは「放っておいても大丈夫な子」なのです。なぜかといえば、はてなブックマークは、べつに引っ越しても大丈夫だからです。引っ越しても、ちゃんと常連客は集まるでしょう。だから放っておいても大丈夫なのです。だからいちばんむずかしい問題だけれど、放っておきましょう。
「出す人がいる」という問題を解きたいのです。これは「放っておいても大丈夫な子」ではないとわたしは思います。
ひとつ提案があるとしたら、「はてなブックマークに、Google AdWordsを」はどうでしょうか。グーグル・アドワーズのことを知らない人は、とりあえずグーグルで調べてもらうことにして、「はてなブックマーク自体が広告」なのだとしたら、やはり広告である「Google AdWords」をくっつけることはできるのではないか。
「え? なんだって、人気エントリーをお金で買わせろだって? そんなばかなことがあるか」と思う人もいるかもしれません。でもちょっと待ってください。なにもお金で買うと言っているわけではないのです。そこはいろいろな方法があると思います。
たとえば、よそのウェブサイトで、人気のあるページというのは、あると思います。たとえばツイッターでたくさんの人に紹介されているとか、ライブドア・リーダーでたくさんの人に登録されているとか、あるいはフェースブックで友達がたくさんいる人のブログだとか。そういった数字で表せる人気によって、はてなブックマークのなかでの順位を変動させる。これは不可能でもないと思います。かんたんではないですけれど。
将来的には、ありうるのではないでしょうか。
つまり、人気エントリーをお金で買うのではなく、オーディエンスで買うのです。ほかの場所で稼いできた観客(オーディエンス)の力を借りて、人気エントリーという広告欄を買う。そういう行き方はどうでしょうか。そうすることで、はてなブックマークは、よりオープンで風通しのよい場所になるのではないか。そう思うのですが。
これが、「出す人がいる」という要素を、「変数化できる」ということの具体的な中身です。
これを実装するためには、かなり複雑なアルゴリズムが必要になるだろう、ということはわたしにも想像できます。「言うほどかんたんじゃないよ」と言われそうな気もします。でも、これはさきほど言ったように、「インターネットそのものの属性」でもあります。だとしたら、正常な進化の過程と言えるのではないでしょうか。そして、インターネットとは、特定できる場所ではなく、場所の集合体です。そこを行き交う人々の交通整理をする人は、誰と決まっているわけではありません。つまり、交通ルールはいつでも変わりうるわけです。そして、変わったときには、それは誰にでも使える道具として、公開されるはずです。それが出て来たら、ちょっと早めに採りに行って、それをつかって自分のところに持って来てしまえばいい。それがインターネットにおける正常な進化というものではないでしょうか。
あるいは、わたしの言っていることは、「なにをいまさら」ということかもしれません。その可能性は十分あると思いますし、それを否定するつもりはありません。ただ、わたしはいま自分の手持ちの材料をつかって、ひとつの提案をしているだけです。それが誰かの目に留まり、「ああ、そういう見方もあるよね」と思っていただければ、それで十分だと思います。「ここのところは詰めが甘いよね」と言ってもらって、「こうしたらいいんじゃない」と言ってもらえれば、さらにうれしいですね。
わたしが思ったのは、「はてなブックマークは、どんどんよくなっているし、これからもよくなるような気がする」ということです。そして、「はてなブックマークはそれ自体が広告」という考えで、もっとよくしていく方法を、具体的に議論できるのではないか。そう思ったのです。
そして、はてなブックマークがよくなるということは、収益化ということにもつながると思います。そして、ここは大事なのですが、「効果があったなあ」とホクホクする人は、なにも「はてな」だけではなく、そこに集まる「広告」を「出す人」それぞれではないか。そう思います。