シスコの影に急き立てられ、EMCがブロケードを買収する可能性とその理由

ストレージおよびIT大手であるEMCのCEOを務めるジョー・トゥッチは先月ニューヨークで主催したアナリスト向けミーティングの場で、同社が今後立て続けに大型買収を進める用意があることを示唆した。トゥッチはEMCが「事業統合の可能性は広範囲にわたって視野においています」と述べたうえで、「これは迅速さの勝負になると思います」とつけ加えた。
このコメントは、EMCはいったいどこを買収するつもりなのかと憶測を呼んだ。なかにはネットワーキング企業のブロケードが最有力とする声があった。では、EMCはブロケードを買収するとしたら、どういった理由が考えられるだろうか。
EMCはこれまでネットワーキングの巨人であるシスコ・システムズとの競合関係で、データ・センター向け機器のなかでも比較的新しい市場である、一見地味としか思えない陣地をめぐって争っている。その名はコンヴァージド・インフラストラクチャ。
その意味は、コンピューティング、ストレージ、ネットワーキングにわたるITハードウェア・プロダクトと、ソフトウェアをまとめて1つの統合型プロダクトにすること。従来これらのプロダクトは別々に販売され、それを接続して利用するのが一般的だった。
EMCとシスコはコンヴァージド・インフラストラクチャ・プロダクトにおいて競合関係が激化しているが、EMCの側にはひとつ抜け落ちているものがある。ネットワーキングのブロケードはネットワーキング機器で年間22億ドルの売上があり、EMCのコンヴァージド・インフラストラクチャ・プロダクトに加わることで、相性のよい合併効果が見込まれる。
それに加えて、両社は長い間提携関係を続けており、協業による顧客数は5万社近くにのぼる。シスコは自前のコンヴァージド・インフラストラクチャ・プロダクト「ユニファイド・コンピューティング・システム」を販売している。これは年間売上高で30億ドル達成が間近と推計されている。EMCとシスコは合弁事業「VCE」において協業し、コンヴァージド・インフラストラクチャを販売してきた。シスコの側からすれば、VCEのプロダクトと抱き合わせでネットワーク・スイッチング機器を販売する機会が創出できる利点があった。
この協業関係は、しかし、徐々にほつれが目立ち、EMCの連結子会社であるヴイエムウェアがネットワーキング企業のナイセラを買収したことによってついに瓦解した。シスコにしてみれば、ヴイエムウェアが同社と競合する意図があると理解せずにはいられない。EMCは今年、VCEに出資したシスコの持分をすべて買い取ることになった。
EMCはVCEを完全子会社とし、コンヴァージド・インフラストラクチャ戦略の中核に据えた一方でネットワーキング機器の一部は依然シスコに依存するという状況にある。そのため、EMCは何とか自前の機器を販売できるようになりたい。
ブロケードを手に入れれば、EMCはシスコの次に出るデータ・センター向けネットワーキング企業を配下に収められる。調査会社のIDCによる定期調査結果でブロケードはシスコに次いで同市場2位の立場を維持している。
EMCは貸借対照表によると83億ドルの現金および相当物を確保しており、これに加えて社債発行と子会社であるヴイエムウェアの現金を用立てることが可能だ。ブロケードは現在約50億ドルの時価総額となっており、これに適正な割増金を乗せるとだいたい70億ドル程度なら身売りする可能性がある。これは先月ヒューレット・パッカードアルーバ・ネットワークスを買収したときの金額にほぼ相当する。アルーバエンタープライズ向けネットワーキング・ギア企業で、HPは時価総額に35パーセントの割増金を乗せて支払った。
トゥッチは近いうちに見込まれる引退の花道を飾るため、EMCで目立った戦略的業績を打ち立てることを狙っているようで、実際彼はこれまで引退の考えを2度にわたって翻意している。
彼はEMCの年間純利益を増大させるという目標にさらされている。3月19日に発行された報告書で、バーンスタイン・リサーチのアナリストを務めるトニ・サコナーギがまとめた推計ではブロケードの買収はEMCの年間純利益を15セントほど上乗せする効果が見込まれるという。
EMCとブロケードのスポークスパーソンはそれぞれコメント要請を拒否している。続きを読む
(From the Re/code blog post. Thanks to Arik Hesseldahl.)