グーグルのイーコマース計画は幹部の相次ぐ退社によって疑問視される

グーグルのコマース・イニシアティヴは1年前、ようやく調子づいたように見えた。当日配達サーヴィス「グーグル・エクスプレス」はサン・フランシスコのコンシューマに好評となり、同社の事業である検索結果画面でのプロダクト広告欄販売も順調で大手小売業者との歩調もうまく合致した。
しかし、1年というのは大きな変化をもたらす。11月にはグーグル・エクスプレスのアーキテクトを務めるトム・ファローズが同社を退社しユーバへ移籍したことで社員を驚かせた。また、今月にはファローズがかつて忠実に仕えてきた上司のサミア・サマットがジョーボーン(健康器具メーカー)のプレジデントの役職を引き受け、同社を後にした。
さて、グーグルは近くコマース関連の革新的な製品を発表するものとみられる。モバイル広告への「購入」ボタンの導入である。複数の情報源から取材した話では、グーグルはこれによって検索エンジンとアマゾンを隔てる壁を破ろうとしている(ウォール・ストリート・ジャーナルが最初にこの動きについて報じている)。グーグルが取り組んでいる検索事業の大幅な改変は、世界中で進んでいるモバイル機器普及の加速によって、フェースブックツイッター、インスタグラム、アマゾンといったアプリが勢力を伸ばしている状況に対するグーグルの逆転を狙った動きといえる。
上級幹部の相次ぐ退社は、グーグルの取り組んでいるアマゾン、ピンタレストほかコマース関連での本気の勝負を疑問視する声を呼び込むものだ。これらのショッピング・アプリはグーグルがこれまで商品関連検索というカネになる事業を浸食しつつある。
「競合に立ち向かう方法は、共倒れを自ら選ぶか、共倒れを覚悟して勝負するかです」と述べるのは、ステープルズでイーコマース部門を統括するフェイサル・マーサッドだ。
その事業が成長段階にあったグーグルは当時、オンライン・ショッピングでも自らの優位を自負してきた。オンラインで買い物をする人たちはグーグルで検索し、欲しいものが検索広告で表示されるとそれをクリックすることが多かった。それはグーグルにとっていい商売だった。
だがアマゾンが合衆国内のイーコマースにおいて、この数年優位に立ち始めると、グーグルの立場は脅かされた。買い物客が直接アマゾンのウェブサイトやアプリに行って購入するたびに、グーグルは商品検索の回数を取りこぼすだけでなく、それに付随する広告収入も失ってきた。
これに対抗するため、グーグルは2013年に「グーグル・エクスプレス」の名で買い物客が洋服や家庭用品、日用雑貨を注文できるショッピング・サーヴィスならびにウェブサイトを開設した。このサーヴィスをつかうと、地元の商店から当日または翌日までに配達を受けることができる。サン・フランシスコ、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスの一部など合計7都市でこのサーヴィスは展開している。顧客は月額10ドルまたは年額95ドルの利用料を支払う。
エクスプレスのプロジェクトはグーグルの立場をアマゾンとの苛烈な競争に追い込む、小売業者を巻き込んだテクノロジ戦争の様相となった。しかしファローズが唐突に退社し、ユーバに移籍したことで彼の率いてきたチームやコマース・グループ全体は不意打ちを食らった。
「トムはグーグル・ショッピング・エクスプレスそのものでした」とグーグル社員は証言する。当日配達サーヴィスは当初この名前で呼ばれていた。「彼がそれを作ったのです。トムが開催したショーでした」
ファローズの側近だった社員が口を揃えて言うのは、彼はショッピング・エクスプレスのプロジェクト自体に失望したわけではないということだ。むしろ、彼はユーバを兼ねてより熱く信望しており、同社のミッションを支持したうえでユーバでの役職を「二度とない機会」と捉え、移っていったという。それでもやはり、彼の退社はパートナーの小売業者や社員からも大いなる疑問を招くものだった。
ファローズの退社に続いて、グーグル幹部はチームに所属していた社員が流出することを怖れた。この畏怖はいまのところ現実化していないが、ファローズの上司だったサマットが、グーグルでの7年以上の勤務を経てジョーボーンへ移籍するという事態が発生した。彼は社内での支持も厚く、仕事の評判もよかったと周辺の人たちは述べる。彼はまた、小売業者の幹部からも信頼されており、業界での評判も良好だったという。
ショッピング・エクスプレスのほかには、サマットはグーグルの旅行関連検索エンジン・プロジェクトの統括、さらに「プロダクト・リスティング広告」事業も担当してきた。この広告(PLA)商品は普及したショッピング・サイトの形態を模倣したプロモート型検索広告で、商品の画像も表示される広告である。イーコマース・ソフトウェア企業であるチャネルアドヴァイザの会長を務めるスコット・ウィンゴはPLAについてグーグルに年間50億ドルないし80億ドル相当の収益をもたらしていると推計している。このプロジェクトはヨーロッパ圏での独占禁止法違反の疑いで調査の対象となっている。
だがグーグルはこの事業を縮小する構えを見せず、むしろモバイル向けの再構築において、ショッピング広告を前面に押し出し、さらに購入ボタンの導入を準備中である。PLAとの連動でこのボタンは表示される予定だと関係者は明かしている。パートナーとなる小売業者は自ら、購入ボタンと一緒に掲載したい商品を選ぶことができる。このようにショッピング機能を搭載した広告をクリックすると、買い物客は直接グーグルのウェブページに飛び、購入手続きに入る。当面は購入機能は携帯電話のみの対応で開始される予定である。
オンライン小売業者にとってとくに気になる点は、PLAの打率である。すなわち、実際に商品の画像を見て購入を完了するに至った人の割合だ。グーグルは広告を見て注文を完了するまでの手続きを簡略化し、手数を減らす取り組みを自らの仕事としてきた。グーグルはモバイル検索において広告表示方法の変更を進めており、その結果アマゾンやフェースブックといった競合に奪われてきた広告収入や取引成立数を取り戻そうとしている。
「グーグルの商品検索から人が立ち去り始めているのはなぜでしょう?」とマーサッドは語る。「その理由はひとつです。使い勝手がベストとは言えないからです。これは方法しだいで改良できるでしょう」
マーサッドは購入ボタンのイニシアティヴについて、ステープルズが準備中の取り組みは公表できないと述べた。続きを読む
(From the Re/code blog post. Thanks to Jason Del Rey and Mark Bergen.)