不胎化政策と1995年3月の米国債

大蔵省国際金融局の官僚は、自分たちが為替レート政策をしっかりと握っていると信じていた。外為市場介入を決定するのは自分たちだからだ。だが、実際に為替レートを動かしているのは、中央銀行の純信用創造量だ。これは中央銀行の取引総額によって決定される。外為市場介入はその一部にすぎない。
大蔵省にドルを買えと命じられた日銀は、その通りにする。大蔵省は日銀がドルや米国債を買うのに必要な円を印刷するだろうと考えていた。だが必ずしもそうではない。日銀は国債その他の債券を国内投資家に売り、その代金で外為市場介入をおこなった。通貨を印刷するかわりに、国内経済から吸い上げたのである。エコノミストはこういうオペレーションを「不胎化」と呼ぶ。不胎化政策のもとでは、日銀の信用創造量は増えないから、円も弱くならない。

1995年2月と3月、大蔵省が日銀に二百億ドル相当の米国債購入を命じたとき、日銀は「過剰な不胎化」を行なって命じられた外為市場介入に必要な額以上の通貨を経済から吸い上げてしまった。1995年3月、信用破壊が起こり、円は記録的な高さになった。

Richard Werner. Princes of the Yen, 2001.