合同会社設立247日目、朝

港区は雨。ひんやりとしている。
火曜日。
この業務日誌という題名の書きものには外でなにが起きているか、世の中は何曜日か、ということを思い出すための意味があって、もうひとついえば夢から覚めた世界にいることを確認する意味もある。これは一日コンピュータに向き合って仕事をするひとに、曖昧になりやすいものだ。
この場所は東京の中心部に近く、ビジネスと住宅が混在する。仕事をしに来ているひとも多いし、住んでいるひとも多い。このおかげで、自分が立っている場所が手に取るようにわかる。朝目覚めて外を見れば、人が歩いているし、自動車も通り過ぎる。その様子を見て、だいたいの世の中を見たつもりになっている。
そしてこの場所が特殊なのは、外国から来ているひとが多いことだ。大使館がいくつもあって、いろいろな言葉が交わされている。そのひとたちがなんとかうまく折り合いをつけて生きている。このへんに住んでいる人が多くて、その日常生活の場面にも出会う。生活習慣の違う国で日々暮らすのはたいへんだろうなと思いながら見ているが、けっこう楽しんでいるようにも見える。そういったとき、わたしは日本という国の豊かさを感じる。
この豊かさをあまり意識しないで生きてしまうのは、なぜだろうと思って考えつづけてきた。それはたぶん、通り過ぎてしまうからではないかな、と思う。へんな話だが、東京は多くの人にとって、通り過ぎるところだ。新幹線にせよ、山手線にしても、首都高速にしても、あるいはタクシーにしても、通り過ぎている。そこに住んで、なんども同じ道を歩いていると、はじめてわかることがある。そのことにやっと気づいたのが、ここに住みはじめた2年前のことだった。
わたしは「小さいけれど確かな幸せ」を感じながら、平民でも豊かに暮らせるのはこの場所にいるおかげだと思っている。ありがたいことだ。