合同会社設立285日目、朝

港区はうす曇り。
金曜日。
「文藝春秋」を買ってきて読んでいたら、羽生善治さんの寄稿があった。「永世名人誕生 この一手に震えた」という題名で、8ページにわたって語っている。
わたしのとくに印象に残ったことばを挙げておくと、

体力的には、二十代のころとそれほど変わっていないように感じています。しかし、将棋に対する考え方は明確に変化してきました。
ある局面から力任せに手数をたくさん読む能力は一般に二十代がピークとされています。私もそうした面は少し衰えたかもしれません。
しかし、経験に基づいた判断力、いわゆる「大局観」は年齢とともに研ぎすまされてきたように思います。ただし、自分が不利なことをあまり分かっていないほうが、粘って粘って逆転することもありますから、勝率としてどちらが高くなるのかはわかりません。

大局観がすぐれているといえば、大山康晴十五世名人のことが思い出されます。あの百戦錬磨の大名人には、晩年に九局ほど公式戦で教えていただきました。(中略)
対局していてびっくりしたのは、大山先生はただ盤上を眺めているという感じで明らかに手を読んではいないことでした。しかしそれでも、なぜか指は急所急所に伸びてくるのです。

そうした記録を意識するより、目の前の勝負に全力を尽くすことが自分の本分だと思っています。

と、ひとつひとつの言葉に感じるものがあった。将棋の盤を目の前にして生まれた言葉の数々に、将棋を指さない人への控えめではあるけれどどっしりと重みのあるメッセージが感じられて、朝からなにか清々しい気分にさせてもらった。