IBMがワトソン・ヘルス部門を新設し医療データ解析

IBMはワトソン人工知能テクノロジをヘルスケアに活用し、同業界のパートナー企業と連携し、2社買収を進め、野心的な投資を行なっている。
最初のパートナー企業3社はアップル、ジョンソン・アンド・ジョンソン、メドトロニックだ。月曜日午後の市場取引終了後IBMはスタートアップ2社を買収したと発表した。エクスプロリスは、クリーヴランド・クリニックから分社化された後5千万人の患者データを利用して疾病、治療、結果にわたる傾向を導き出す。ファイテルは、ダラスを本拠とするソフトウェア・メーカーで、患者ケアを管理し病院の診療効率を高めるソフトウェアを制作する。
IBMの計画は端的にいえば、ワトソン・テクノロジをクラウド・ベースのサーヴィスとして膨大な量の健康記録を保管するとともに病院、開業医、保険会社、研究者、そして個別の患者に対し最良の治療経路を示すことである。
「弊社はパーソナライズされたヘルスケアをこれまでにないスケールで提供することを目指します」とIBM研究所および先進イニシアティヴを統括するシニア・ヴァイス・プレジデントであるジョン・E・ケリー氏は述べた。
これまで、IBMはワトソン・テクノロジを活用した医療センター・プロジェクトを実現しており、ニューヨークのスローン・ケタリング記念ガンセンター、ヒューストンのテキサス州立大学MDアンダーソン記念ガンセンター、クリーヴランド・クリニックなどが挙げられる。しかしワトソン・ヘルス部門の新設の狙いは、とケリー氏は言う。テクノロジをメインストリームのヘルスケアに活用することにあります。
そしてIBMはこれまでワトソン・テクノロジを商用化し、たとえばツイッターのデータを発掘するためのツールを作成したり、天候データやインターネット・オヴ・シングズに活用してきた一方で、とケリー氏は付け加える。ワトソン・ヘルスは特定の産業を狙った初めての部門です。
ワトソン・ヘルスの発表はIBMが今年これまで立て続けに打ち出してきたイニシアティヴの一環であり、これに先立って同社は事業提携の締結、クラウド・コンピューティング、データ解析、ワトソンにわたる事業再編を進めてきた。これはIBMが将来の成長へ向けた投資を打ち出し、同社の財務結果が足踏みすると見込まれる今年のなかで、強気の姿勢を改めて明示する狙いがある。
IBMは直近の四半期決算で期待を下回る結果が続いており、IBMの首席経営執行役員ヴァージニア・M・ロメッティは業界アナリストと投資家に向けて2015年が転換の年であると表明し、ワトソンをはじめとする成長事業が近いうちに従来型のハードウェアおよびソフトウェア部門での減速を埋め合わせる収益源に発展する見通しだと述べた。
IBMの幅広い分野への展望には、多方面から収集した健康記録データを解析することで、この数十年主流となっていた治療法に改善策を提案するという目標がある。同社はパートナー企業との連携によって、テクノロジ、経済、政策にわたる変化が進めばIBMの新規事業が定番化する可能性は高まると指摘する。じっさい人工知能の進歩、低コストのクラウド・コンピューティング普及、厚生政策の変化が近年見られ、これまでは治療と診断に手間がかかればそれだけ売上が増えるというモデルだったのが、患者の健康を守ることで成立する業種が生まれる素地ができたという。
「ヘルスケア業界にまつわる勢力図はこれまでにないほど調和的になってきました」とジョンソン・アンド・ジョンソンで情報テクノロジおよび先進ウェルネス・プログラムの統括者を務めるサンドラ・E・ピーターソンは語る。「これは画期的な瞬間で、ホンモノの産業革新が起きているのかもしれません」
ジョンソン・アンド・ジョンソンとの協業でIBMが重点領域としている例を挙げると、膝や尾?骨の代替手術における患者のケアを改善することがある。同社はワトソン・テクノロジを活用し、患者の記録からデジタル・フィットネス機器やスマートフォン・アプリにわたる豊富なデータを引き出すことで、患者の動作や身体的変化をモニタリングできる。「ひとつの仕組みですべてが足りる、パーソナライズされたケアが可能になるのです」とピーターソン氏は述べる。
メドトロニックは、医療機器メーカー大手で、血糖値検査から得られるデータを生かして血糖値やインスリン値の測定にとどまらない健康状態の通知を目指す。メドトロニックの機器ではデジタル化がすでに進んでおり、データの収集が十分であるが、同社の計画ではワトソン・ソフトウェアを生かすことで身体の変調が見られる患者を特定し、インスリンの注入量を自動調整したり、ケア・プロバイダや患者自身に異変の通知を送信できるようになるという。
「ゴールは、動的かつパーソナライズされたケア・プランを策定し糖尿の進行を遅延あるいは防止できるようになることです」とメドトロニックの糖尿グループ担当エグゼクティヴ・ヴァイス・プレジデントであるフーマン・ハカミは語る。
アップルはヘルス・センサーの供給業者として存在感が日々増しており、アイフォーン・アプリからアップル・ウォッチまで深い関わりをもつ。先日発表されたヘルスキット、リサーチキット・ソフトウェアではアップル製品を保有する数百万人から(事前に同意した場合のみ)健康情報を収集するための連動型アプリケーションで、研究者に役立てられる。このデータはワトソンとの連携ができるようになる。「ヘルスキットとリサーチキットの背後に活躍する分析脳をわが社が提供していきます」とケリー氏は述べる。続きを読む
(From the NYTimes.com blog post. Thanks to Steve Lohr.)