スポティファイの成功はオリジナル・ビデオ・コンテントの成否にかかっている

スポティファイはビデオ・ストリーミングへの参入を計画していることがウォール・ストリート・ジャーナルの報道で判明した。だがこれは競合関係にある有力企業の流れに押しつぶされる可能性のある賭けといえる。
では、スポティファイはこのような競合ひしめく、ユーチューブやヴィーヴォの席巻する市場でほんとうにやっていくのだろうか?
音楽ストリーミングの巨人である同社がビデオでの事業開拓を図るのはこれがはじめてではない。それに、スポティファイは5月20日にニューヨークで開催されるイヴェントで「新しい発表」を用意しているというウワサがすでに流れている。
各社が報道している通り、アップルは音楽レーベルへの圧力を強め、スポティファイの無料サーヴィスで楽曲提供を中止するよう働きかけ、現在アップル自身が傘下のビーツ・ミュージックを通じて今年中の開設を目指す音楽サーヴィスの下地ならしとしている。さらに、テイラー・スウィフトをはじめとするビッグ・ネームのアーティストたちがスポティファイの広告収入型サーヴィスに異論を唱えている。また、ジェイZによるティダルはアーティスト自身による楽曲への制御を公約している。
スポティファイは果たして無料サーヴィスを諦めることになるのか否かはわからないが、世界各地で低迷の傾向が続く音楽の売上に、新たな付加価値をもたらそうとする動きがあるのは明らかだ。しかしスポティファイにとって日々重大な問題になりつつあるのは、これまでの定額制と音声広告の両輪で支える収益という立脚点から一歩踏み出す必要が生じていることだ。
スポティファイは6千万のアクティヴ・ユーザを抱えているものの、このうち有料会員は1500万人にとどまる。広告はスポティファイにとって無料会員からの収益を生み出す原動力となっているが、音声広告という形態では生み出せる収益は限られたものだ。
スポティファイは以前にもビデオへの進出を狙ったことがある。「ライヴ・セッションズ」という、アーティストがカメラの前で(たいていは場違いな環境で)ヒット曲を演奏する番組を制作してきた。だが昨年スポティファイは無料サーヴィスに対しビデオ広告を開始した。これはスポティファイがこれまでオーディオ中心のプラットフォームだったことから奇異に移る動きだった。
商業ブランドの提供による、たとえばコカコーラ、マクドナルド、フォードといった広告が流れるのはモバイルとデスクトップのスポティファイ・クライアントが起動している時(ウィンドウが最小化されている時ではなく)に限られた。だが、それに加えてユーザが広告再生時に画面に注目しているという保証はない。同社にとってそれは明白な問題だった。
2月にスポティファイは歌詞データベース企業「ミュージックスマッチ」とのタイアップを発表、これによってユーザはお気に入りの楽曲を聴きながら、歌詞を間違えずに自ら歌うこともできるようになった。このタイアップは無料版と有料版の両方に付加価値サーヴィスを提供してきたが、それだけでなく音楽ファンがコンピュータの画面を「見る」習慣をつくりだした。それは広告を見ることにもつながる。これが国際展開するかどうかに関わらず、スポティファイはユーザの目を耳と同様に使ってほしいと求めており、「視覚に訴えかける」ことが収益化のカギと決断したようだ。
これまでのようなビデオ広告の物理的制約を踏まえると、スポティファイにとって最良の方針は無料ユーザをなんとか有料会員に呼び込むこと、ビデオを媒体として定着させることといえる。動きのある画像を視聴習慣につけ加えるだけではうまく機能しなかったわけだ。
ビデオ広告の収益化のため、スポティファイは広告を積極的に見る気にさせるコンテントを打ち出す必要がある。各社の報道でも、スポティファイがビデオ・コンテントを呼び込むだけでなく、自前で制作することを目指していると説明されているのはこういった背景がある。オリジナルで限定のコンテントがそこで流れるとすれば大いなる付加価値が生まれ、そうすれば収益にもなるため他社がこぞって同じ道を選ぶのも無理はない。
ネットフリックスはオリジナル・コンテントの強みによって他社との差異化に成功して久しい。昨年同社はエミー賞を7作品で受賞し、今年1月には初めてオスカーを手にした。2014年11月、ビットトレントはオリジナル・コンテントへの参入を発表、ヴィメオも昨年5月にウェブ限定「ハイ・メンテナンス」の新作6エピソードの制作(11月から放映)を発表した。さらに、レディットさえ自社制作ビデオ・コンテントを開始している。
ユーチューブは、2億ドルの「オリジナル・チャネル」イニシアティヴを設立し、これまでオリジナル・コンテントを多数打ち出してきた。だが先日ネットフリックスからコンテント契約担当幹部を引き抜き、同社は今後の計画としてユーチューブで人気を集めるクリエータに多額の資金供与を行なうと発表した。続きを読む
(From the VentureBeat blog post. Thanks to Paul Sawers.)