1987年10月のソロモン・ブラザーズと米国債

マーケットの大暴落は大量絶滅のようなものだ。多種のビジネス、そしてそれを経営していた人物が化石の記録から消えていく。新たに、それまでは知られていなかったような分野が台頭してくる。恐竜と平行して生きていた哺乳類のように、これらの新参者たちは実は以前からそこにいたのだが、ライバルが没落したので急に数が増えただけなのだ。ジョン・メリウェザーや同種のことをやる連中がこれだったのである。
ブラック・マンデーの時点ではこうなるとは思えなかった。メリウェザーがソロモンに連れてきた若い学究肌のトレーダーたちにとっては、株式大暴落は恐ろしい経験だった。エリック・ローゼンフェルドは言っている。「机の前に座って、これが金融システムの最後かと考えたのを今でも覚えているよ」。株式市場でのパニックはアービトラージ・グループにも大きな痛手を与えた。一年間の利益約二億ドルがたった二、三日で吹っ飛んでしまった。
しかしジョン・メリウェザーは動じない。彼はグループの人間を集めて会議を持ち、それは延々と夜遅くまで続いた。ローゼンフェルドは次のように回想する。「彼はトレーダーのポジションについて非常に細かいことまで訊ねたんだ」。テイク・アウトの食べ物の容器やコーヒーの紙コップに囲まれて、メリウェザーと配下のメンバーはどうしたら損が出ているトレードをカットできるか検討しあった。しかしメリウェザーはそこでとどまらない。彼は、疲れて目がとろんとした部下たちに向って、新しいトレードを考え出し、そして損失を取り戻すようにと言った。
昔から、株が下がると債券市場がよくなる。そして1987年の10月に起きた「最後の審判の日」のような出来事が起こったときには、無リスクのように思われる米国債のみがよくなる。米国債は、イールドの上下動が激しく、平常時には取り立てて魅力があるわけではないのだが、市場が混乱すると、投資家たちはまるで救命具のようにしがみつくのだ。この手のビジネスがソロモン・ブラザーズに殺到した。トレーダーはこの混乱をどう利用することができるだろう。
(『LTCM伝説』東洋経済新報社、2001年 169−170)
(From the traslated version of Inventing Money. Thanks to Nicholas Dunbar.)

LTCM伝説―怪物ヘッジファンドの栄光と挫折

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