マイナスの貯蓄者とエマージングマーケット趨勢的トレンド

重要な一要素である人口動態のトレンドは、特にアメリカ商務省の国勢調査局や国連事務局の経済社会局の人口担当部門など公的機関から、多数の文献が公表されている。このトレンドは目下の社会的な議論のなかで大きなテーマとなっている。ベビーブーム世代の高齢化を受けて、退職後については処方箋の無料化要請が強まるだろうが、65歳以上のアメリカ人は今後四半世紀の間に、現在の総人口の8人に1人から58%も増加して5人に1人に近付く。ヨーロッパでは強力な労働組合が老齢年金給付金を抑制する動きに反対してストライキを打ったりしているが、人口動態の流れには抗しがたい強さがある。ドイツでは高齢人口の割合はアメリカの12%に対して16%であり、2030年にかけて26%へと著しく増加すると予測されている。日本の先行き見通しは、さらに悲惨だ。高齢人口比率は現状の17%から倍増して、30%にまで急上昇する。
高齢者の可処分所得はどの推測値を見ても、働き盛りの約40%と大幅に少ない。個人消費がGDPの3分の2を占めるような経済では、人口の5分の1を占める高齢者の支出が1ドルあたり40セント減少すれば、経済成長にはそれに応じて大きな下押し圧力が作用することになるだろう。その影響は池のさざ波のように広がる。社会保障の負担が増大するため増税につながる。納税者も減少する。投資可能な資金量も同時に収縮する。高齢者は「マイナスの貯蓄者」であり、生活のために貯蓄を取り崩す。しかし、以上のようなことは先進国世界の話であり、途上国世界では逆のトレンドが生じている。人口が増加を続け、かつ若年化しているのである。ビル・グロースがエマージングマーケットに対する投資を推奨するのは、彼にはこのような容赦のない流れ、すなわち趨勢的トレンドの力が加わっているからなのである。(From the translated version of "The Bond King: Investment Secrets from PIMCO's Bill Gross" pp.101-102)
(『債券王ビル・グロース 常勝の投資哲学』東洋経済新報社、2004年 101−102)

債券王ビル・グロース 常勝の投資哲学

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