スティーヴ・ジョブズが抜けたいま、アップルはどうするのか

(This is a translated version of "The Mac Night Owl" blog post. Thanks to Gene Steinberg.)
いわゆるメディア・アナリストの人たちが投げかけている、いくつかの話題がわたしの関心を惹きつけている。とくにひとつ、流れにさからって発言している人がいておもしろい。その人というのはスコット・フィニーで、かれはコンピュータワールドの編集長で、これはマックワールドの姉妹誌である。かれがアップルの行き先がどのようになると考えているか、その向こう見ずな姿勢を見ればつい気を許してしまうだろう。わたしたちは多かれ少なかれ、同じような意見を感じていると思うからだ。
問題はかれの言っていることばだ。これはかれがわかっていないからというのではなく、かれ自身がエンタープライズに迎合しているところのある雑誌の編集者だから気に障るのだ。言い換えれば、かれの幅広い読者層にはパワー・ユーザも含まれているのだ。
記事そのものについて言うと、スティーヴ・ジョブズがアップルの些事にいちいち口を挟んでいない現状--といってもかれがいちばん大事な問題については口を挟んでいるにちがいないが--とその理由を述べつつフィニーはアップルがこれからその口調をどのように変えるか、いくつかシナリオを描いてみせる。
というわけで、詳しい話に入る前に言うと、アップルの役員たちは、ジョブズが部分的サバティカルに入る前にすでに行進の指令を細かく受けているのはたしかで、それが明言によるものであれ、ほのめかしによるものであれ、疑いようがないとわたしは思っている。だからかれらがスティーヴ・ジョブズの言ったことをいきなり翻して、あさっての方向へ行ってしまうというのはありそうもない。フィニーはそれを本当に信じているのなら、夢でも見ているのだろう。
だがかれが持ち出しているアイディアはいずれにせよ特筆に値するだろう。それが世間話みたいなものであっても。事実、かれのアイディアには一理あるのだ。
たとえば、アップルは「低コストの、ネットブック型のマックを売る」べきだという提案がある。そうだな、これはたしかにアップルが考えているものだが、臨時CEOのティム・クックが言っていたことをかれは忘れたのだろうか。クックはこのあいだ金融アナリストむけに開いた四半期会見で、アップルはジャンクをつくる気はないと言ったはずだ。ジョブズが姿を消してしまうリーヴのあいだ、ものごとが変わってしまうとか、あるいはアップルはすでに戦略を変えつつあるとかれは思っているのだろうか?
さらに言うと、ネットブックと言ったってどんな形のものだろうか? たんにマックブックのプロセッサを遅くして、ハード・ドライヴの容量を減らして、小さくつくるようなものなのか? アップルはビッグ・ブラザーの要求する、価格は下がりつづけるべきだという呪文にしたがうとでも言うのか?
それともアップルは正反対のやり方をとって、アイフォンを土台にして大きく引き延ばすのか? 10年前だかにあった、かのイーブック300なる、ニュートンの派生機種が復活して、アイフォンやアイポッド・タッチ・プロみたいなかたちになるのか? まあ、フィニーはわざわざ「簡素化したマックOSX」と言っているくらいだから、アイフォンがすでにそれに当たるオペレーティング・システムを採用していることを知らないのだろう。
もうひとつのリクエストは、アップルは「顧客や記者たちに対し、もっと透明になるべきだ」というものだ。それはそうかもしれないが、これはもうわたしたちが何かにつけ要求してきたものだ。とはいえ、わたしがかれを信じたいのは、アップルが自社の製品がどのように市場開拓されるべきか自前の展望をもっていること、そしてその結果アップルはひじょうにうまくやっていることを、かれが認めていることである。それは争えないことである。
フィニーの論理をひとつ取り上げて、それがアップルを裏切っていると言いたいのではない。かれが提案していることのなかには、わたしにはあまり賛成しかねるものがあるというだけだ。ひとつには、アップルは「独立系ソフトウェア・ヴェンダ」とうまくやるべきだという提案だが、これはすなわちアイフォンむけにすばらしいアップスをつくってくれたサードパーティの開発者たちのことと、それからマックのソフトウェアに取り組んでくれた数千人の開発者のことだろう。
アップルは開発者コミュニティとは、愛憎半ばした関係をとってきていると言うかもしれない。それでも、わたしはこの頃アップルはプログラマたちとずいぶんうまくやってきていると思う。たしかに、アイフォンSDKの出だしにあったいくつかの利用制限、たとえばコミュニティ同士でやりとりができないことや、説明書を発行してはいけないことなど、これはやや行き過ぎた面がある。でもその後はなんとかうまく片付いている。
フィニーの提案にある、アップルはエンタープライズむけにもっと努力するべきだというものについては、わたしはもう言い古された話題だと思うし、やはりアップルが力を向けるべき対象がコンシューマであることは事実である。それでも、アップルはアイフォンを、その魅力をまったく失わずにビジネスむけのスマートフォンに仕立てようと本気で取り組んできた。次期のマックOSXは「マイクロソフト・エクスチェンジ」むけの対応強化が含まれる予定だ。こういったことはよいやり方であるし、アップルがデルやHPのようにビジネスを優遇しないといっても、わたしには十分よい方向へと進んでいるように見えるのだ。
それからもうひとつ、今日の話題を終えるまえに言っておきたいことがある。
もしあなたがヴェライゾン・ワイアレスという、いまや携帯電話キャリアとして「オールテル」の買収によって合衆国内の第一位になった会社の顧客だったとしたら、あなたはアイフォンが自分の選んだサーヴィスでも動いてくれたらと思うでしょう。じっさい、AT&Tは合衆国内の回線業者としては最善とは言えないかもしれないが、この決断のおかげでアップルは同一商品を世界中にむけて、GSM規準という同じ方式を利用して提供することができたのだ。
AT&Tというのは、かならずしも誰もが気に入るようなワイアレス業者ではないかもしれない。顧客サーヴィスやネットワーク品質では善くも悪くもないといったところだろう。それでも、AT&Tはずいぶんよくなっているみたいだし、とくにわたしの住んでいるあたりでは顕著なようであるし、それほど悪い決断ではなかったと思う。アップルはAT&Tと手を組むにあたって、かなり有利な条件を勝ち取ったのかもしれない。
アップルがAT&Tとの契約期間が済んだあと、ヴェライゾン・ワイアレスをキャリアのリストに加えたとしても、そうなればべつの周波数の、CDMA対応版をつくることになるだろう。それは必ずしも越えられない障害というほどではないだろう。ほかの携帯電話メーカが直面してきたような状況とは、ずいぶんちがっているだろうから。
いずれにせよ、アップルの戦略はこれからもスティーヴ・ジョブズがリーヴ前に描いた筋書きにしたがって進むと考えていいはずだ。それ以外になにがあるだろうか?