ゲスト投稿: リーオ・バボータがマーケティングのタオを語る

(This is a translated version of "Micro Persuasion" blog post. Thanks to Steve Rubel.)
わたしの会社の白書でまとめた「5つのデジタル・トレンド」のなかで、ひとつ「引き寄せる力」というものがある。これが意味するのは、付加価値のあるデジタル・コンテントをつくること、多くの人がオンラインで使えて没頭できるようなユーティリティをつくることだ。
リーオ・バボータは「ゼン・ハビッツ」(禅の暮らし方)の作者で、近頃ベストセラーにも入った生産性についての本『ザ・パワー・オヴ・レス』(控えめの力)の作者である。彼にはわたしたちの考え方と通じるものがあると思ったので、なにかひとつ書いていただけないかと頼んだところ、書いてもらえたのが以下のゲスト投稿である(ただし、書かれた意見は彼自身のものである)。なにかあったらコメントを聞かせてほしい。それではリーオ、よろしく・・・



近頃マーケティングや広告のコミュニティでは、わたしの言ったことがいささか波風を立てているようだ。というのは、わたしが出した無料電子ブック「控えめで生き抜く」のなかで、できるだけ広告に触れるのを避けること、そうすれば広告から新たに生み出される、もっと買いたい欲望を避けることができるようになるというススメを説いたからだ。
広告とマーケティングはわたしたちの心に新しい欲望を植え付けるようにできている、とわたしは説き、そしてあなたがもし、つつましい(それでいて満たされた)暮らしをしていきたいのなら、広告を避けることだと説いた。
それでスティーヴ・ルーベルが--わたしがとても尊敬している人が--わたしに、ではマーケティング界はその、わたしが消費者(「ふつうの人」とも言う)にススメを説いたところの世界のなかで、どう振る舞うのがよいか、と訊ねてくれた。これはとてもよい質問で、わたし自身ブログ(ゼン・ハビッツ)のマーケティングをするのに、そして本(ザ・パワー・オヴ・レス)を成功させるのに、あれこれ考えたことでもある。
わたしはなにを読んだわけでもなく、なにもないところからゼン・ハビッツをつくりあげ、そして最初の年に世界でトップ100のブログに入ることとなった。これはわたしが呼ぶところの「マーケティングのタオ」という原則に完全にもとづいている。これはタオ信仰における原則からもってきたものだ。わたしがこの原則を本にまとめて出すと、売り出した日にアマゾンのベストセラーとなった。
では『マーケティングのタオ』を、どのように使えばうまく行くかを考えてみよう。
こんにちのマーケティングが面している試練
わたしたちはまず、自分の属している世界を知る--それがどのような風景なのか見て取ることが必要だ。そうすれば、それとどう関わればよいかわかってくる。マーケティング担当の人たちはほんの10年前とくらべてもずいぶん違った世界になったなと思っている。インターネットが何から何まで変えてしまったのだ。製品マーケティングから、個人ブランディングから、大統領選挙まで。大事な点を3つだけ言うと、

  • 1.見方によっては、マーケティングは近頃ずいぶんやりやすくなった。というのは、新しくウェブサイト、製品、サーヴィス、ブランドを打ち立てて、合い言葉をウイルスのように拡げていく方法があるからだ。
  • 2.べつの見方では、試練も大きくなっている。というのは競争が増えたからで--近頃誰でも競争に参加でき、無名の個人(わたしのような人)が巨人と肩を並べて競う力を持ち、ときには勝つこともあるからだ。
  • 3.さらに大きな試練は、消費者/ふつうの人の発想の仕方だ。わたしたちは前よりずっと物知りになっていて、ときにはものごとを斜に見たり、あふれるスパムや小細工やしつこいマーケティングにうんざりすることもある。わたしたちが求めているのは、ちゃんとそこにある、偽物でない、価値のあるものだ。見かけ倒しの、押し売りには我慢ができないのだ。

この点をふまえて、これまでのマーケティングはどのようなものだったか(風景が変わってしまう前の話)、そしてこれからはどうなるのか、マーケティングのタオを通じて、考えてみよう。
古いやり方
まず言っておくと、広告はこれまで、消費者の欲望を生み出すようなテクニックを洗練していくことに用いられてきた。この類いのパースエージョンは、人を操縦するようなやり方だ。これはいまでも、通用している。前はアイポッドがほしいと思わなかった、前はアイフォンやマックブック・エアやグーグル・アンドロイドがほしいと思わなかった・・・そんな人たちがなにかの拍子にどうしてもほしくなる。これは広告がそうさせたのだ。
問題は、景気が急に落ち込んで、多くの人が自分の習慣を変えなければいけないことに気づいたことだ。これに気づいたことで、その人たちは自分が長年のあいだ広告に操られてきたことに気づく。なんとか変えなければと思う。より多くの人がウェブサイトに出てくる広告をブロックし、ティーヴォでTV広告を早送りして、広告の出るラジオを消してしまう。
マーケティングは同じような問題に面している。古いマーケティングは(いまでもそうだが)押し売りの産業で、人にむりやりブランドを呑み込ませるやり方だった。この押し売りが頂点に達したのがジャンク・メールで、そうなるとイーメールは途方もないスパムとなる。これはむりやりなので、しばらくは通用しても、すぐに飽きられてしまう。
その結果、その人たちは、むりやりで、押し売りに感じられるものはとにかく抵抗するようになり、操縦されることに嫌悪を感じるようになった。風景はこのように変わり、マーケティングもその例に外れない。
タオのやり方
マーケティング担当の人たちはまったく新しい戦略を採るしかない--というよりも、全く新しい発想の仕方だ。まずは多くの人に新たな欲望を植え付けることをとりやめ、自分のやり方を人々に押しつけたり人々を操縦することをとりやめることだ。
かわりに、もっと自然なやり方を学ぶことだ。人がなにを求めるのか学び、それを与えることを学ぶのだ。与えるものに価値があれば、人はそれを認めるだろう。それをただで与えること。むりやりはいけない--あなたが与えられる価値のすべてをもって、自分のところに来てもらうのだ。どうすればいいか。

  • あるがままに受け入れるマーケティングと広告は多くの人を変えようとした。そうではなくて、その風景、人をあるがままに受け入れるのが利口だ。人の言うことを聞き、なにを求めているのか学び、それを与える。自分の都合に合わせるようにものごとを変えるのではなく、ものごとがあるがままに合わせるようにあなたのやり方を変える。
  • 操縦してはいけない。人は自由にさせておくこと。コンテント産業は人を操縦しようとし、産業の風景が変わりつつあるのを受け入れなかったので、そのしっぺ返しを受けている。操縦しようとしたがゆえに顧客の反感を買い、戦いに負けつつある。もしそうではなく、人の欲望がおもむくまま、それを見守ることができていたなら、この変化に堪えて、DRMフリーで規制フリーのコンテントを自由にダウンロードし共有できるようにすることもあっただろう。広告を土台にした新しいシステムをつくることもできたかもしれないし、ほかにも人々に価値を与えることを土台にしたビジネス・モデルがあったかもしれない。操縦しようと言ったところで、もう通用しない--人は自由にさせておくこと。
  • むりやりはいけない。押し売りマーケティング、つまり自分の都合で人に無理強いをすることは、もはや受け入れられない。そうではなく、抵抗されることの少ない道を学ぶことだ。水のように--風景とともに流れること。これはつまり、柔軟に、風景が変わるがままにまかせられること、変化があればそれに応じたものになる、適応できること。スティーヴ・ルーベルはこの点でとくにすぐれたことをしていて、マーケティング界がブロギングとはなにかを知る前に一足早くブログをはじめ、ツイッターにしても人が使い道を知る前にパワー・ユーザになっている。彼は変わりゆく風景とともに流れている。ブルドーザのようなマネはしない。
  • 控えめにマーケティング担当の人たちはどうもやりすぎるところがある。そのせいで人は嫌気がさし、そのやり方やメッセージに用心してしまう。控えめに。メッセージがすぎると思ったら、ちょっと身を引くこと。より力に満ちた、人を惹きつけるメッセージをつくり、それに代弁させるようにすること。すばらしいメッセージならウイルスのように広がる。ソーシャル・メディアのある近頃ではそうむずかしいことではない。だがメッセージがすばらしくなければ、ウイルスのように広がるのでない限り、メッセージを出しすぎることで、かえって否定的な効果を招いてしまう。
  • 小さなことをやる。小さなことは近頃うまく生き残っている。ブロガーのためによいことをする、ウェブサイトがつづくための助けをする、役に立つものをただで配る、価値のあるアドヴァイスや情報を分け与える、便利なリソースをつくる、ツイッターで日常生活に役立つことを提供する、便利なことをブログに書く、オンラインで人にやさしく親切なことを行なう・・・こういった小さなことも、時間が経てば大きな違いになる。古くさいと感じるかもしれないが、これはほんとうだ。わたし自身、ゼン・ハビッツやザ・パワー・オヴ・レスでそれを証明したし、スティーヴだって、マイクロ・パースエージョンでそれを証明している。
  • 価値のあるものを。人が必要と思うことを分け与える、価値のあるものをただで与える。そうすれば人は認めてくれる。新しく見かけのよいウェブサイトをつくれば人気が出ると言って通用するのは、戦略会議くらいだ・・・人が必要と思うような役に立つツールを無料で分け与える。それが価値のあるということ。フォーラムをつくって、人が議論したいと思うようなこと--それもよそではできないようなこと--を議論してもらう。それが価値のあるということ。
  • 引き寄せる、押し付けない。価値を生み出し、力に満ちたメッセージを出すことで、人はあなたのところに寄ってくる。あなたのメッセージやブランドを押し付けるのではなくて。もし寄ってこなければ、メッセージを考え直し、あなたの提供している価値を考え直すこと。メッセージはもちろん、人前にさらけ出すことが必要だ。だがそれにはやり方がある。押し付けるのではなく、引き寄せること。