よいヴェンチャ・リターンとは?

(This is a translated version of "A VC" blog post. Thanks to Fred Wilson.)
「PEハブ」のロレンス・アラゴンが、シスコが有名な「フリップ・カム」のメーカである「ピュア・デジタル」に5億9000万ドル(の株式)を払ったというニューズを取り上げて、このような問いかけをしている。

これはかなりいい取引のようにみえるが、ここで知っておく必要があるのは、VCが9500万ドルを、「フリップ」というデジタル・ヴィデオ・カメラのメーカである「ピュア」につぎ込んできたことだ。会社の株を半分保有していると仮定すると、そのリターンはつぎ込んだ額の3倍ちょっとである。中堅どころのVC法人にすれば、まともなリターンであろうが、ベンチマーク・キャピタルだとかセコイア・キャピタルといった名の知れた支援者にすれば、これではボロボロであろう。

これはよい問いかけで、議論する価値のあることだ。そのためのブログだし、そうしよう。
わたしの友達マイク・フェインスタインがロレンスの投稿へのコメントで指摘しているのは、VCは積んだカネの3倍以上いけば十分よくやったと言えるということだ。

わたしにはこの取引の詳細がわかっているわけではないが、9500万ドルがいったん取引にのぼれば、VCの会社に占める保有率は70から80%はあるとまずみていい。そうすると、VCは少なくとも4億4000万ドルは、該当するエグジットの金額から受け取ることになる。これは4.5倍といったところで、これならソロバンにも納得といえそうだ。だが、初期の投資者たちはもっと受け取れたかもしれない。というのは、以後のステージで投資した人よりも平均して低い株価であったはずだからだ。

というところで、いったんピュア・デジタルの話から離れてみよう。あなたが9500万ドルを、3年か4年のあいだで4億5000万ドルにふやすことができたなら、それはどんなときであれ、よいリターンとわたしは考える。
だが、3倍というのはよいヴェンチャ・リターンだろうか? それはまったくもって、あなたが投資したステージと、あなたの「打率」にかかっている。
多くの人は「打率」は打席数に対するパーセントであることを知っている(つまりはバットを持った回数が基準だ)。VCの人に言わせれば、打率というのは、成功した投資の回数を、投資回数の合計で割った率のことだ。
そこで「成功した投資」を、少なくともあなたのカネが戻ってきたものとしよう。それは必ずしも正確とは言えないが、とりあえずそうしておこう。
あなたがたとえば、IVPだとかTCVといった(シリコンバレーでは後期ステージ法人としてはわりに有名な2つ)後期ステージの投資者である場合、あなたの打率は100%に非常に近いだろう。初期ステージのリスク(テクノロジ、チーム、市場)が取引を通じて払拭されるまで待って、それから定められた価格と条件で投資をする。そうすればあなたのカネが戻ってくるのはほぼ保証されるし、ものごとがすべてうまくいった場合、投資の3倍から4倍も狙うことができるだろう。ポートフォリオ全体でみれば損失が出ることはめったにないので、平均して3倍というのは100%の打率をもった人にすればよいリターンと言えるだろう。
あなたのポートフォリオで、経費と売掛けを算入しないで3倍というリターンを得ることができれば、あなたのところに集まる投資者には実質2.25から2.5倍を配分できるし、10年満期であれば(平均投資期間が5年として)LPへのリターンとしても十分であろう。
ところが、もしあなたが(たとえばわたしたちの法人ユニオン・スクエア・ヴェンチャーズのように)初期ステージの投資者である場合、話がちがってくる。わたしはこのブログで数回にわたって言ってきたが、わたしたちの目標とする打率は「1/3、1/3、1/3」だ。つまり、わたしたちの投資の1/3は負けるものと見込んで、わたしたちの投資の1/3はカネが戻ってくると見込んで、わたしたちの投資の1/3は実入りを見込むということだ。
これを打率でソロバンにかけることにして、真ん中の1/3のリターンを1.5倍としてはじき出すと、実入りのリターンが出る1/3の投資で、平均7.5倍はなければならないことになる。
では初期ステージの投資者が「よい取引」で4から5倍受け取ったとしたら、それはLPに渡す分がないということか? そうとも限らない。そのポートフォリオの「勝者」(実入りのリターンが出る1/3のこと)をどう考えるかによって異なる。もうひとつ、わたしがこのブログで言ってきたことだが、わたしたちはひとつの投資が全体のファンドを満たすリターンを出すように期待している。2004年のファンドでいえば、ひとつの投資のリターンが1億2500万ドルということになる。
1000万ドルの投資で、1億2500万ドルのリターンを出すことがあれば、それは最善に見積もって12.5倍となる。そうすると「勝者」のポートフォリオで平均7.5倍を求めると、かごのなかには4から5倍ほどの取引があるということになる。
わたしの考え方は、ひとつの取引でファンドの分リターンを出して、それに3つか4つの取引でリターンを出して、のこりの1/3のリターンは実質3倍になるようにすれば、LPにとってもよいリターンを配分することになるというものだ。
ここで話を戻して、「ピュア・デジタル」の取引について言うと、セコイアやベンチマーク投資ファンドとしてざっと5億ドルだとして、それぞれが今回の取引でざっと1億ドルずつ受け取ると、ピュア・デジタルはほぼ間違いなく、該当するファンドには十分な実入りのリターンが出る「勝者」のカテゴリに入れることができるだろう。といっても、この取引がファンドを満足させることができるというのではなく、それはまたべつのカテゴリの話だ。投資者にとってはうまくいった投資であるし、投資をしてリターンを受け取った人たちはとても喜んでいるだろうと思う。