広告の将来: 『グーグルはなにをしようとしている?』に訊いてみよう

(This is a translated version of the "Micro Persuasion" blog post. Thanks to Steve Rubel.)
ジェフ・ジャーヴィスの新しい本、『グーグルはなにをしようとしている?』は必読で、目からウロコの一冊だ。ジェフが快く、「アドヴァタイジング・エージ」に書いているコラムのためにQ&Aに応じてくれたので、それを載せよう。
グーグルはどのように広告代理店を変えるか?
たった10年そこそこで、グーグルは驚かずにいられないほどのビジネスを打ち立ててしまった。じっさい、その成功はこのような疑問を抱かせる--グーグルはなにをしようとしている What Would Google Do (WWGD)?
メディアを評論し思想を重ねてきたジェフ・ジャーヴィスが、この疑問に自ら進んで体当たりし、これと同じ題名で、新しい本を出してきた。ジャーヴィスはグーグルの行動から12のルールを見定め、それと比較するためにメディアや広告といった年長の産業を引き合いに出している。わたしはイーメールで、ジェフにグーグルのモデルのどこが彼の思想を呼び起こしたのか、インタヴューした。
ティーヴ・ルーベル: こちらも考えずにいられないような質問を本の題名にしましたね。それにならって質問をさせてください。グーグルが広告代理店なら、グーグルはなにをしようとしているのですか? グーグルはどうやっていくつもりなんでしょう?
ジェフ・ジャーヴィス: 言わせていただくと、わたしたちはもうそれを知っています。グーグルは、新しいかたちの、代理店のプラットフォームです。
本のなかでもパブリシス・リシャド・タバコワラが言っていますが、グーグルはまったく新しい、代理店と関わったこともないような広告主を目当てにしています。だから、新しいルールを自分で決められたのです。グーグルは希少性を売りにするのでなく、その効果を売りにしています(これまで希少性を強みにする経済でやってきたメディアが学ぶべき教訓です)。グーグルは関連性の高いものに褒美を上げ、これまでより効果のある広告を奨励しているのです。
検索を通じて、グーグルは広告がなくても顧客と対話ができるような環境を、すべてのブランドに分け与えています。グーグルはもちろん、代理店とも取引をしています。小切手を持っていますから。音楽、新聞、TV、ラジオに載る広告がなかなか構造的な変化に追いついてこないのは、このせいです。これからなんです。
ルーベル氏: 本というのは、ずいぶんグーグルとはかけ離れています。あなた自身いつもそのことは言っていますね。本といえばアマゾンでは上位に来ます。WWGDで学んだ教訓から、本を書いたりマーケティングをする方法は影響を受けましたか、それから、デジタルのマーケティング担当はあなたの経験からどんなことを学びとれるでしょうか?
ジャーヴィス氏: これを書いている時点で、この本は(アマゾンで)500位圏内に入っています。もちろん、この「アド・エージ」の記事のおかげで100位くらいには入ってくれると期待していますよ。
ひとつ告白したいことがあるんですが、わたしはこんど古いメディアの注目を集めようとしたり、古いメディアである本を出版するのは--オンラインで全部公開して検索や、リンクや、書き換えなどもできるようにしなかったのは--自分で偽善だと思っています。自分のドッグフードを食べたとは言えないでしょうね。なぜか? それは、本の産業はいまでもじゅうぶん機能していて、前払いだってしてくれるんです。犬は出されたものは食べるんです。そうですよね。
出版社の「ハーパー・コリンズ」は、新しいことをたくさんやっています。この本の内容を、23分にまとめてヴィデオ版でつくらせてくれました。オンラインにも本を全文載せました(グーグルが検索できないようなウィジェットで)。ブログでも抜粋を30日間掲載しました。なにより大事なのは、この本は数年前にわたしのブログではじまったということです--そこにアイディアを載せながらいろいろ助けてもらいました。それも、1つの章まるごと読者につくってもらったくらいです。議論はまだつづいていますし、ツイッターでもやっていますよ(読者がツイッターで書評やら引用やらをしてくれるのを見るのが楽しいです)。
これからどうするか。読者がお金を払えば、すべてのメディアで著者のアイディアにアクセスできるようになったらいいでしょう。わたしはオライリーの本で感心したのですが、かれらはデジタルになった本のアップデートを、一生購読できるようにしました。ところで、わたしはハードバック版に書いたのですが、ペーパーバックは広告を載せて安くしようかと読者に訊いてみました。これには賛同が得られませんでした。
ルーベル氏: グーグルが徹底して消費者に重点を置いていることを、本のなかで強調されていました。クライアントよりも消費者に重点を置くことが、果たして理にかなうのか、あなたは疑問を投げかけていますね。これは広告代理店がすでに言っていることではないですか? もし違うというなら、なにをどう変化させればいいのでしょうか?
ジャーヴィス氏: 本のなかでは、あるオーストラリア人の広告会社役員の発言から、代理店は消費者よりもクライアントに注意を払うべきだとする意見を引用しました。さらに、タバコワラが言っている、代理店はむしろ顧客の顧客に重点を置くべきだとする意見を引用しました。わたしなら、後者に票を入れますね。ほんとうの質問はこうでしょう。代理店は、広告でもPRでも、消費者の代弁者の役を果たすことができるのか。もし会社にすばらしいカスタマー・サーヴィスがあったら、カスタマーは代弁者を必要とするか?
ルーベル氏: カスタマー・サーヴィスやピア・トゥ・ピアの提案が新しい広告なのですか? もしそうなら、広告産業はどのように変わるでしょうか?
ジャーヴィス氏: 広告はもう失敗しています。
すぐれた製品や売りにできるようなサーヴィスがあって、顧客とすばらしい関係が持てるのなら、広告はいらないはずです。
まあ、それは言いすぎかもしれませんね。広告の需要はまだあるでしょう--というのは、消費者は製品だとか、その変化を知らないですし、そうでなくてもたとえばアップルを例にとると、製品と顧客にちょっとした洗練を与えたいからです。しかしこの本でわたしは、マーケティング担当は広告が全部なくなったらどうなるか想像してみたらいい、そこに第一優先でつぎ込んできたドルをどこにつぎ込むのか考えたらいい、と提案しました。
競争や価格がオンラインで公開されているような時代で、あなたの売り物が広告である場合、あなたは第一優先のドルをまず製品やサーヴィスの品質につぎ込むべきです。あなたがザッポスなら、あなたは残りのドルをつぎにカスタマー・サーヴィスにつぎ込めば、マーケティングと言えるでしょう。もし残りのドルが広告につぎ込むというのなら、理由がなければなりません。製品がそれなりによければ、理由は消えていくでしょう。
ルーベル氏: それからあなたは透明性の話もたくさんしていますね。しかしグーグルは、必ずしも透明性の高い会社とは言えません。広告産業はこの点でどう変わるべきでしょうか?
ジャーヴィス氏: グーグルは完璧ではありません。グーグルはわたしたち全員に、透明であることを求めます--そうすれば、検索を通じて見つけてもらうことができ、グーグルのジュースの分け前をもらえるからです。しかしグーグルは自分の広告の内訳や、グーグル・ニューズのソースについては十分に透明性が高いとは言えません。だから、親が言いそうなことですが、言うはたやすく、行なうは難しといったところでしょう。
オンラインは、できるかぎりオープンであり、顧客からの質問にはすべて答え、組織ではなく人として、顧客の会話に加わっていってはじめて、意味をなすのです。透明性は信頼につながります。透明性はそのものが、よいビジネスなのです。
ルーベル氏: WWGDではB-to-Bのマーケティングのなにがわかりますか?
ジャーヴィス氏: 顧客は顧客、コミュニティはコミュニティです。ニッチも集まれば、あらゆるコミュニティ(ママさんだろうと、配管工だろうと、薬品技術者だろうと)がオンラインで手を組んで、知識や興味を共有するのを押しとどめるものなど、どこにもありません。「テッククランチ」だとか「ペイドコンテント」のように、B-to-Bのコンテント、広告、求人情報、イヴェントに的をしぼったブログがあれだけ成功しています。高度に専門的なオンライン・メディアの世界では、B-to-Bは大きな機会の代表格です。
ルーベル氏: もしグーグルがスーパーボウル広告だったら、どんな感じでしょうか?
ジャーヴィス氏: それはないでしょう。グーグルはわたしたちを大衆としては扱いません。グーグルはもっとうまく自分のカネをつぎ込むやり方を知っています。
ルーベル氏: 広告がプラットフォームになることは可能ですか?
ジャーヴィス氏: ある意味、グーグルはすでにそうなっています。グーグルは誰でもほかの誰かになにかを届ける手段を提供していて、それは広告を通じてであれ、それぞれのサイトであれ、対話であれ、そうでしょう。これこそ、グーグルがメディア、広告、マーケティング担当、そして政府に与えてくれた最大の教訓だとわたしは信じています。顧客やコミュニティに成功するためのプラットフォームを提供し、あなた自身も成功することができるものです。
それは広告か? まあ、広告の定義をし直せば、そう言えるでしょう。ほぼすべての会社やブランドが、顧客のためのプラットフォームになることができ、それを成し遂げるための手段以外は、なにも新しいものではありません。すぐれた会社はいつの時代も、顧客がしたいと思ったことを助けるものです。それがプラットフォームです。
ルーベル氏: 広告を製作する過程(つまり調査、クリエイティヴ、メディア購入、PR、ダイレクト、デジタルなど)がグーグルに呑み込まれるとしたら、どの部分ですか、それともグーグルに呑み込まれると、なにかすばらしい機会があるのでしょうか、だとしたらなぜですか?
ジャーヴィス氏: インターネットで、なにもかも変わってしまいました。それはもちろん、グーグルだけのせいではありません。いまでは、たとえば顧客にグループ分けをしたり、意見を調査したり、階級付けをしたり、サンプルを集めたりして情報収集してきた以上に、顧客のことを直接知る手段がたくさんあるのです。
顧客のことがいちばんよくわかるのは、かれらが製品のことを推薦したり、話し合ったりするときです。メディア購入というのは、ネットワーク活動に変わっていくことでしょう。ニッチも集まれば、ある線を越えたとき、そこには事業機会が生まれるでしょうし、そのきっかけになるのは代理店というよりもテクノロジ、メディア、ネットワーク会社なのです。PRは会社にいるすべての人の仕事になり、会社は人対人の直接の関係を築く必要が生まれます。ダイレクト? インターネットはダイレクトですし、この問題についてはそれがどうなるというより、まだまだやるべきことが残っているはずです。
マーケティングはなにもかも変わってしまいました。
ルーベル氏: 最後に、この本のなかであなたは「代理店と広告は顧客と会社の関係から手を引かなければならない」と書いています。これは広報についても同じことが言えるように思います。同じようなことが起こるならばですが。それでいて、あなたはPRには手厳しいようで、その将来は法律家と同じくらい疑わしいと述べています。なぜですか? それでは、なにを変える必要があるのでしょうか?
ジャーヴィス氏: インターネットをつかってビジネスを改善していくことはできるでしょうが、PRや法律家はこのオープンな時代の性質にはついていけないでしょう。というのは、かれらにはクライアントが必要ですし、その点で透明性や言行一致は担保できないからです。わたしが間違っていることを証明したいのなら、その法人はグーグル的に行動しないクライアントとはつきあわないことです。そういうことはまず起きないと思いますが。
これまで述べてきましたが、あなたが探りを入れたいことはこういうことでしょう。もし、わたしが急進的な極論を述べたとおり、広告がすでに失敗していて、関係こそがすべてだとしたら、PRは広告よりも戦略的に言って有利な立場にあるのではないか?
ええ、そうかもしれません。でもこういうこともあります。会社とその従業員は顧客やコミュニティと直接、仲介人を入れずに関係を育てていく必要があります。ではPR代理店の役割は? 関係を築くように助言し、激励することでしょう。でもそうすると、すぐれたコンサルタントのように、どうしても外へと出て行ってしまうに違いないのです。そういうことは起こらないでしょうが。代理店の経済は、クライアントにもっとカネを出してもらうことにかかっています。質問するならこう言うべきでしょう。新しい経済モデルは、代理店とグーグル的思考の両方を生き残らせるでしょうか。