レムデシビルとヒドロキシクロロキン 8

前回はクラミジア肺炎との係わりで、抗生物質が果たす、新型コロナウイルス治療への道筋を考えてみました。抗生物質にも色々ありますが、掘り下げていきます。

マクロライド系抗生物質と組み合わせて検索されたワード

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マクロライド系抗生物質と組み合わせて検索されたワード

Yahooにおいては「一覧」「市販薬」「副鼻腔炎」が上位に、Googleにおいては「コロナ」「副作用」「副鼻腔炎」が上位に入りました。
前回のアジスロマイシン、前々回のクラリスロマイシンはマクロライド系抗生物質に分類されます。ヒドロキシクロロキンは抗菌薬のひとつで、それとともに抗生物質を投与する場合、主な目的はどこにあるのでしょうか。

クロロキン類は抗マラリア薬として長らく用いられてきた経緯があって、その点からマラリア原虫(真核生物)に効く抗菌薬と分類するのが普通のようです。真核生物は細菌の一種で、ウイルスとは異なります。
ウイルスによる感染症であるCOVID-19は、クロロキン類で治療することが可能なのか。
病原体の増殖を阻害することで回復を助けるという役割でみれば、可能な場合もあるといえます。
ただ、今回の新型コロナウイルスは肺炎の一種という位置づけにされて、その点でクラミジア肺炎などに効き目が認められていたマクロライド系抗生物質との併用で治療されたのが、結局遠回りになってしまった部分があります。
ランセット誌の撤回されてしまった研究論文は、対照群にくらべてクロロキン類投与患者の死亡率が目立って高かったので、これが信憑性を疑問視され、確たる裏づけを得られなかったので数字が不適切という結論になりました。
しかしながら、多数同時期に発表された研究論文では、ヒドロキシクロロキンとマクロライド系抗生物質の併用が必ずしも好ましい成果を得られていない点で共通項がありました。
ということは、真核生物に対処するための治療薬がウイルスに効くのか? という問題がまずあって、それに加えて肺炎の治療に使われる抗生物質が組み合わせられることの意義が不明瞭になる問題。
かんたんな問題ではありませんが、考えてみるだけの意味はありそうです。

抗生物質

抗生物質について、ここであらためて浚いだしてみましょう。

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ペニシリン Wikipediaより

抗生物質の役割をおおいに知らしめた「ペニシリン」。これを抜きに抗生物質を語るのは難しいと思います。

ペニシリンと組み合わせて検索されたワード

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ペニシリンと組み合わせて検索されたワード

Yahooにおいては「とは」「系抗生物質」「バンド」が上位に、Googleにおいては「作り方」「仁」「結核」が上位に入りました。
個人的に気になったサブワードがありましたので、少しここで触れておきます。
ペニシリン 発見 偶然」
この「発見」と「偶然」ですが、じつに興味深いエピソードなので、ここに共有したいと思います。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0818627www.kinokuniya.co.jp

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『歴史を変えた10の薬』紀伊国屋書店ページより

今年日本語訳が出版された『歴史を変えた10の薬』(トーマス・ヘイガー著、久保美代子訳)には、サルファ剤の話が出てきます。戦争中にドイツで感染症への治療に尽力して製薬会社バイエルの躍進にも一役買ったゲルハルト・ドーマクの話です。サルファ剤も大事な薬品になりましたが、同時期にロンドンで見つかった薬品の話が、より強く興味を惹きます。
https://www.youtube.com/watch?v=OoXb3Bosud8

ドーマクがバイエルに新薬発見のために採用されたころ、ロンドンのある研究所で働いていたスコットランド人が、奇妙なものに気づいた。1928年にアレクサンダー・フレミングは、培養プレートの上で細菌を培養していたが、どこからか入りこんだカビにサンプルが汚染されているのをみつけてがっかりした。けれども、このカビはどこか奇妙なところがあった。そのカビをどこで繁殖させても、その周りがきれいに、菌のいない領域になり、菌の立ち入り禁止区域のような部分が生じるのだ。そのカビが菌を止める何かを発しているようにみえた。フレミングはその働きをしている物質を純化しようと試み、「カビのブロス」と彼が呼ぶものについて試験した。それが、現在私たちがペニシリンという名前で知っているものである。けれども、活性のある成分は分離して新鮮に保つことが非常にむずかしく、フレミングはとうとうこのプロジェクトを打ち切った。そして、別のものに注意を向けた。当時多くの科学者が注目していたもの。サルファ剤だ。
 その後のサルファ剤の成功は、ほかの研究者をさらなる「魔法の弾丸」となる薬の研究に引きもどした。フレミングペニシリンもそのひとつだ。第二次世界大戦中、サルファ剤よりもっと多くの種類の細菌に効果を発揮する何かをみつける必要性に駆られ、科学者たちはペニシリンを大量に生成し、製造し、保管する方法をみつけだした。戦争がまもなく終わろうとしている時期に、この薬が広く利用できるようになると、ペニシリンは急速にサルファ剤を脇に追いやった。ペニシリンはより多くの種類の菌に対して効果があり、梅毒や炭疽熱など、真菌からも、ストレプトマイシン、ネオマイシン、テトラサイクリンをはじめその他数十もの殺菌性の化学物質がみつかった。

ペニシリンと、サルファ剤が同時期に偶然発見されたことは、ヒドロキシクロロキンと、マクロライド系抗生物質の作用を考えるうえで、なにかヒントになるかもしれません。
COVID-19は決定的な治療法が見つからないなか、全世界にその脅威が知られるに至った、感染症です。
ヒドロキシクロロキンにしても、マクロライドにしても、別々の特効薬になっていました。それが急遽動員されて、ただちに主役になるというのは、たやすいことではありません。
では、望みがないのか。そう考えるのは気が早い。現状では、ヒドロキシクロロキンの有用性が疑問視される向きが根強く、一方ではレムデシビルが新薬申請されるという前進を遂げ、これで決着ありか、という印象も強まってきました。

あとがき

今回の考察では、レムデシビルとヒドロキシクロロキンは、何かしらペニシリンとサルファ剤の並立関係になぞらえることができるのでは、と思ったことがきっかけです。
もう一歩進めればと期待していますが、現状ではヒントが十分に揃わず、その場で足踏みといった具合です。

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