レムデシビルとヒドロキシクロロキン 3

これまでにレムデシビルとヒドロキシクロロキンの世の中への浸透のしかたを考えてみました。
次に、薬としての立ち位置が、どのあたりに属しているのか、少し掘り下げてみたいと思います。
薬理学的な見地から、自分で調べてわかった内容をかんたんにまとめてみます。

感染症とは

一般の世界にはさまざまな生物がいて、このうち極めて小さな生物(微生物)が、より大きな宿主の体内に仮住まいする常態がつくりだされると、これを感染と呼ぶ。
仮住まいのなかで、細菌やウイルスといった微生物は、増殖をはかる。特定の微生物が生体内で増え続けて免疫からの攻撃をかわしている現象を、感染症という。
ウイルスは0.02μmから0.3μmの大きさで、自己増殖機能をもたない。その核酸にはDNAまたはRNAがあって、たんぱく質を合成することによって増殖するのが特徴。
これにたいして、細菌は自己増殖機能をもち、その核酸にはDNAとRNAの双方がある。また、たんぱく合成の機能ももつ。

ウイルスは生物か?

これは明白な答えがなく、生物と無生物の中間と表現されることが多い。
別の見方をすれば、微生物の一種であり、真核生物、原核生物、そしてウイルスという分類で、真核と原核のいずれににも属さないものをいう。
真核にはカビ(真菌)などがあり、原核には細菌、クラミジアなどがある。
このうち、クラミジアがもっともウイルスに近い性質をもつ。

感染症の治療薬は何がある?

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感染症の治療薬

抗生物質、合成抗菌薬、抗真菌薬、抗原虫薬、駆虫薬、抗ウイルス薬を含む。

レムデシビルとヒドロキシクロロキンの現況

今年に入ってからとりわけ注目度の高いコロナウイルス治療薬候補の2つですが、この数日ではどうなっているのでしょうか。
まず、話題性を軸にして、少し考えてみます。

ツイート数から
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ツイート数でみるレムデシビルとヒドロキシクロロキン

この数字の現況が何をあらわしているのか、何を私たちに伝えてくれるのか考えてみると、レムデシビルとヒドロキシクロロキンはどちらが上とも決めがたい、ふしぎな関係にあるようにみえます。たとえば、日本語では「レムデシビル」が24時間に100件以上、「ヒドロキシクロロキン」が24時間に180件以上の数字となってるのに対し、英語では「remdesivir」が1時間に200件、「hydroxychloroquine」が1時間に120件という、逆転の関係にあります(日本時間8月8日17時現在)。
具体的にはファイザーがレムデシビルを製造という速報的なツイートが多くみられたことも影響していると思われ、一方、英語でのhydroxychloroquineはつづりが難しく、つづり間違えhydroxychroloquineは1時間に1件程度混在していることも多少影響がありそうです。

もうひとつ、関心の向きを軸に考えてみます。

検索ワード組み合わせから

「レムデシビル」を検索すると、検索ワードの組み合わせとして次のようなサブワードが示唆されます。

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「レムデシビル」と組み合わせて検索されるワード

いまのところ、Yahoo!JapanとGoogleで共通して関心が高いのは「添付文書」「副作用」が筆頭で、あとは「中国語」(Yahoo)「アビガン」(Google)などでしょうか。
ヒドロキシクロロキンの場合、検索ワードとしては、「クロロキン」「リン酸クロロキン」など近似ワードが大事でした。それに対し、レムデシビルはバリエーションがあまり見受けられず、関心の向きが見えやすい部分もあります。なお、レムデシビルとヒドロキシクロロキンという組み合わせは上位には見られませんでした。

あとがき

新型コロナウイルスによる重症患者、死亡者の推移は収束までの道筋が見えていないことを示唆しているようです。世界中で流行しているこの感染症ですが、治療薬という観点からすれば、大きな事業がひとつ出来上がる、歴史にも稀な事例が進行中なのではないか。そのように感じています。
ウイルスと細菌の違いについて、正確に知っているわけではなく、インフルエンザとの比較てもあまり理解していなかったのが正直なところです。
これをきっかけに毎年流行しているインフルエンザの治療にも前進があれば、その研究成果の共有にも期待しています。何か新しい発見があるかも。
アビガンについても、関心の向きがありそうなので、機会をみつけて書いてみようと思います。

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レムデシビルとヒドロキシクロロキン 2

ヒドロキシクロロキンをくわしく知りたい

レムデシビルとヒドロキシクロロキン
の記事で少しずつわかってきた、COVID-19の治療薬の特定をめぐる動き。中国、米国、日本の方向性には、幾らか近似しているような気配がありました。
では、なぜ似ているように見えたのか? 錯覚なのか。これを知ろうという動機づけで、疑問点を深堀りしてみます。

1.レムデシビルの推進
2.クロロキンの推進
3.緊急使用の許可

こういった共通項はあったものの、そもそもレムデシビルとヒドロキシクロロキンは別々の病気に用いられてきた治療薬。
レムデシビルはギリアド・サイエンシズという製薬会社の開発による、ウイルス性疾患の薬品ですから、まずまず納得の行く話です。では、ヒドロキシクロロキンは実際、コロナウイルスの治療になぜ効くとされたのか?

クロロキンとは違うの?

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クロロキン、といえば憶えやすいし、発音するのも面倒でない、名前らしい名前かもしれません。
検索するのも、クロロキンは件数が多いようです。ヒロドキシクロロキンや、リン酸クロロキンは合計してようやくクロロキンの件数に届くといった程度。

そもそも、2020年の初頭に急速に有名になった新型コロナウイルス。その治療薬として一躍脚光を浴びることになったのは、リン酸クロロキンでした。

リン酸クロロキンは新型コロナウイルスに効くのか

きっかけは中国。ヒドロキシクロロキンに類似したリン酸クロロキンを含む7種類の物質の作用について研究を重ねてきた公的機関。武漢ウイルス研究所を中心とする研究グループがNatureに寄稿したLetter(論文の一種)において明かされたのは、レムデシビルとの比較において十分に比肩しうる、クロロキン類の効能でした。
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中国公衆衛生当局の推奨したクロロキンを含む物質の投与方法

この結果が好ましいことを知った行政当局は2月、研究調査への支援に乗り出しました。その顛末は、このような流れにまとめることができます。

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さらに、3月になると、日本でも実際に医療機関が患者への投与によって得られた臨床データを公表。

日本感染症学会が3月10日に公表したのは、次のような事例。

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時間の推移とともに見ると、上にような順番でヒドロキシクロロキンの効能が徐々に明らかになったことがわかってきます。

副作用は十分に検証されてきたの?

気になる副作用ですが、20年以上前に、クロロキンの動物への投与試験があり、試験対象動物(ラット)において次のような副作用がみられたことが研究論文で明かされています。

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あとがき

このように、副作用はすでに20年以上の時間を経て公表されているので、人間に投与するにはより慎重であることが求められます。しかし、コロナウイルスの世界的な流行が、医薬品開発の速度に勝ってしまうと、人類が感染症を克服した、とは言えない状況が待っています。
6月に米国がFDAの公式の許可を打ち消すような混乱が生じたのは、上にまとめたような展開を考えれば、ありえない事態ではなかったと思われます。薬品の開発にかかる時間と、感染症を沈静化したという実績を残すまでに時間がかぎられる政治家の事情が、こういった事態を招いた一因であることは、指摘しても差し障りなさそうです。
2020年という時代の特異性が、COVID-19という社会現象を、ある種後押しするという(本来望まない)展開になっているのかもしれません。

レムデシビルとヒドロキシクロロキン

新型コロナウイルスの治療薬として、大きく取り上げられた薬品が2つあります。
レムデシビルと、ヒドロキシクロロキンです。
これらの薬品はそれぞれ、別の疾病に効くことで定評のある、方向性の異なる薬品です。
なぜ、こういった薬品が、新型の感染症の治療という場面で脚光を浴びることになったのか。

ヒドロキシクロロキンとは

ヒドロキシクロロキンはマラリアの治療に効能が認められた、十分に効能を検証された薬品です。
きっかけとしては、中国が大流行中のコロナウイルスに対決するため、投与を開始したことが挙げられます。この投与については賛否あるようですが、英国の権威ある科学誌「Nature」にもその検証作業を公表していて、仮に今回のコロナウイルスの治療法が確立された場合、中国の取り組みが早かったことが評価される可能性も十分ありそうです。
国際感染症ジャーナルのサイトには、29日付でヒドロキシクロロキンの有効性について客観的な検討が試みられています。
寄稿したのはアントネッラ・モンフォルテ氏を筆頭に、4名の研究者です。この論考ではCOVID-19への治療が奏功するか否か、早急な結論は回避すべきとの論調が通じて優勢のようです。
とくに、ヒドロキシクロロキンの投与は「いつ」という問題が肝要だとする部分があります。

When best to start treatment is also a question that needs to be addressed in ad-hoc randomised studies.

https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(20)30600-7/fulltext
おそらく、これに先立ち話題になったのが、推進派ともみられるハーヴェイ・リシュ博士です。

リシュ氏は、コネチカット州ニューヘイブンにあるイエール大学教授。
7月23日のニューズウィーク誌に寄稿。
ヒドロキシクロロキンの使用を推奨。
5月には、米国疫学ジャーナルにも単著論文を発表し、これまでに行われた臨床研究を援用。
COVID‐19に早期投与することでヒドロキシクロロキンは効果が出やすいと指摘。


www.medpagetoday.com

レムデシビルとは

一方、レムデシビルはギリアド・サイエンシズが開発した、エボラ出血熱をはじめとするウイルス性疾患の治療薬です。ニパウイルスや従来型のコロナウイルスにも効果が検証されています。
“GS-5734 and its parent nucleoside analog inhibit Filo-, Pneumo-, and Paramyxoviruses”. Scientific Reports 7 (1): 43395. (2017)

1987年の創業以来、HIVB型肝炎C型肝炎、インフルエンザといった感染症治療のための抗ウイルス剤開発を事業の中心としている

ギリアド・サイエンシズ - Wikipedia
今年のレムデシビルは

2020年5月1日、アメリカ合衆国で緊急使用を認めた新薬であり、日本では「特例承認制度」を用いて2020年5月7日に正式に新型コロナウイルスへの治療薬として承認された

https://ja.wikipedia.org/wiki/レムデシビル
この「特例承認」ですが、日本でも緊急事態宣言が発令されていたので、厚生労働省の部会「薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会」がインターネットを通じてビデオ会議システムの決議でなされたもの。異例な薬事承認・許可ですが、これに先立ち米国ではトランプ大統領の3月からの方針を受け継ぐかたちで、すでに承認が下りていたのが大きく作用したのではないかと思われます。
ギリアド社は中国との協働でレムデシビルを推進していて、武漢ウイルス研究所を発端とする集団研究の論文が発表されていることから、やはり日、米、中の国家としての方向性が似ていたことが伺われます。

では、この2つがコロナウイルスの治療薬として本命なのかといえば、課題もあります。

ヒドロキシクロロキンは心臓への副作用が指摘されていて、こちらよりも心臓への負担が軽く、なおかつ有用な抗ウイルス効能が認められた物質も一部の研究でわかっています。5月にはがん治療薬や抗精神病薬、抗ヒスタミン薬といった出番の多い薬品に含まれる薬剤化合物が、コロナウイルスの場合も十分に転用できそうであることが米仏の研究者の共同で発表されています。
この研究の中心を担っていたのが、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のNevan Krogan氏。専門分野としては、ウェブサイトに

Faculty, Cancer Genetics, Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center

kroganlab.ucsf.edu

このように記載がありますので、やはりがん治療薬の研究がコロナウイルスの研究にも役立ったという可能性も。

リシュ教授にも、クローガン教授にもそれぞれの強みがあって、研究所のチームの方向性も発信する情報の守備範囲に影響しているかもしれません。
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オックスフォード大学ワクチンの治験から、医薬品開発を知る

オックスフォード大学が新型コロナウイルスへのワクチンを開発することで、製薬会社のアストラゼネカと協働に入りました。
7月には英国の医学雑誌「ランセット」の論文で、その過程が公表され、現在のところ治験のフェーズ1に進んでおり、安全性の確保がされたうえで、免疫系の働きを促進する薬品の臨床試験が進捗過程にあることが判明しています。
この治験には健康な成人の方が選ばれ、1000人以上がワクチン「ChAdOx1nCoV-19」の接種を受けました。その様子については、実際に治験者になった男性(リチャード・フィッシャーさん)の手記がBBCのウェブサイトにも公開されています。読むと赤裸々な内情も打ち明けられていて、
もちろん副作用についても、70%の方において発熱、頭痛の訴えがみられたそうです。
では、そもそもワクチンを開発するとは何なのか、私は十分な知識がなかったので、この機会に少しだけ学んだ成果を共有します。

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COVID-19のワクチンを早急に開発する必要がある

では、いつまでにワクチンを開発すればいいのか

ワクチンとはなにか

副作用はないのか

ふつうのワクチン開発にはどのくらい時間がかかる

新薬とは

スクリーニングとは

臨床試験とは

フェーズとは

開発にかかる費用は

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COVID-19のワクチンを早急に開発する

ワクチンとはなにか

感染症の予防に用いる医薬品。病原体から作られた無毒化あるいは弱毒化された抗原を投与することで、体内の病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ワクチンja.wikipedia.org

副作用はないのか

たとえば、2000人に1人がおたふくかぜのワクチン接種で無菌性髄膜炎に罹患するという場合、その副作用の割合は0.05%です。コロナウイルスのワクチン開発では、オックスフォードの治験で70%の割合で発熱、頭痛症状がみられたとのことで、その割合が多いか少ないかという話になります。まったく副作用のない薬とは、病気を治す効き目もほとんどない薬という意味になってしまうので、医薬品ではそのバランスをどこに定めるかがきわめて重要な基準になると思われます。コロナウイルスに関しては、重症率や死亡率は低いものの、感染する力が強くて、重症になる際の容態が予測困難なことが問題になっています。そうすると、ワクチン開発にもやはり、おたふくかぜのワクチン程度とはいかず、ある程度の副作用を織り込んだ開発にならざるを得ないということだと思われます。

新薬とは

医薬品開発のこと。

前臨床(動物実験)から実際に人に投与して有効性と安全性を確認する臨床試験までの過程のことである。前臨床開発(ぜんりんしょうかいはつ)は、リード化合物の段階から臨床試験を行うために必要な検証を完了するまでを指す。

https://ja.wikipedia.org/wiki/医薬品開発ja.wikipedia.org

スクリーニングとは

ターゲットとなる集団に対して実施する共通検査によって、目標疾患の罹患を疑われる対象者あるいは発症が予測される対象者をその集団の中から選別することをいう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/スクリーニング_(医学)ja.wikipedia.org

フェーズとは

第1相から第4相の試験をフェーズI、フェーズII、フェーズIII、フェーズIVといった区分で行なうことで、医薬品開発の承認にまで適切かつ迅速に到達することが目的です。前臨床試験に対し、本臨床試験ともいえます。
日本では、厚生労働省への届出がないと、臨床試験は行なうことができず、その点で安全性の担保が裏づけられる一方、手続きに時間がかかるという難点もあります。

開発にかかる費用は

世界中では・・・
80億ドル程度
DiMasi J, "The value of improving the productivity of the drug development process: faster times and better decisions",Pharmacoeconomics, 20 Suppl 3, pp=1-10.
日本では・・・
製薬協(日本製薬工業協会)が公表している数字があります。

英文名称 Japan Pharmaceutical Manufacturers Association、略称製薬協・JPMA)は、新薬メーカー等、研究開発志向型の製薬会社による業界団体。

https://ja.wikipedia.org/wiki/日本製薬工業協会日本製薬工業協会 - Wikipedia

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新薬開発費用(平成14~平成22年)

出所:http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/guide/guide12/12guide_08.html

あとがき

感染症の治療薬は、病原体が入って体内で増殖をはじめている状態を、可能なかぎりその進行を遅らせ、身体が自らの免疫機構を生かして細菌、ウイルスを退治するための後方支援という役割だと考えられます。では、その効き目はどの程度にするのか?スピード制限なしでは身体がかえって弱ってしまうことがあるので、その微妙な調整が大事になる。でも、感染症は次々と感染者を伝って生き残ろうと伝染、変質していく。そのかけっこに対処する。新型コロナウイルスは、こういった感染症の治療薬の可能性を、世界規模で人類が共有するという、きわめて珍しい事例になったようです。オックスフォード大学、アストラゼネカというすでに確立された組織が、歴史的にも稀な事例、見たこともない社会現象に立ち向かう。伝統と、革新の意味について、容赦なく人類に問いかけているのがCOVID-19ということなのかと思いました。
なお、このまとめは一般人が個人の領分で集めることができた、すでに公表されている情報に基づき研究した成果を共有することを目的としています。正確性について、全部を保証することはできかねますので、お含み置き下さい。

アンセストリーか、23アンドミーか? DNAキット選ぶなら

家族の写真を大事にめくって見る、ご先祖様の昔話に花が咲く。こういった経験はやはり多くの人が思い当たることと思います。
自分の先祖がどこから来たのか知りたい、自分とは何か? これからどう生きるのか? 何を手がかりに健康管理すべきか? そういった関心を満たすことのできるサービスが2020年の現代には、多数出来ています。
DNAキットを使うことで、あなたの先祖がどこにいたのか、いまあなたの家族はどこでつながりあっているのか? 「知りたい」欲求を、いまのあなたが、生きているうちに、満たすことができるわけです。

アンセストリーDNA(アンセストリー・コム)と23アンドミーは2大人気DNAキット

CNETでも、こういった検査の需要増に取材を拡げていて、じっさいのところ「どっちがいいの?」という疑問に答えようとしています。
www.cnet.com

アンセストリーDNAでわかること

セールになると59ドルという優待価格も見受けられるアンセストリーですが、その安さだけではない、選ばれる理由が幾つかあります。
CNET記者のシェルビー・ブラウンさんは、「アンセストリー・ヘルス・キット」を実際に購入してその結果を次のように述べています。

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アンセストリーの要約

これまでにアンセストリーが集計した検体の数は1千6百万人以上に達していて、その結果の妥当性は23アンドミー(1千万人)を上回るとも言われています。ただし、アンセストリーの採用している方式には若干の癖があり、母系遺伝のmDNA、父系遺伝のYクロモサムのいずれも対象外なので、DNAをどこまで解読しているのかという問題も指摘されています。
アンセストリーでは、自分の健康に関心がある、将来かかりやすい病気について知りたい、という要望に応えるため、「アンセストリーヘルス」というリポートも運営しています。たとえば、「ガンへのリスク」「膀胱線維症など既往症」「血液の健康状態」といったリポートがもらえるという利点があり、さらには今後のビタミン管理などもアドバイスしてもらえるのが特徴です。
なぜこういったことがわかるのか。DNAとは家族の歴史を記録した巻物のようなもので、これをひもとくことで、その人の家系がもつ体質を明らかにするからです。ただし、リポートを目的とするもので、診断とは違うものです、という注意書もあるので注意が必要。

23アンドミーというベストな選択肢

なぜ、23アンドミーでなければいけないのか? この問いに答える理由があって、それは「DNA検査キットを自分で選べる」ということです。

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23アンドミーの選べる3価格

上のブラウン記者は、「ヘルス・アンド・アンセストリー」を選択。
1.唾液採取管とフタ、返送用封筒
2.アプリ、またはオンラインで登録する必要
3.アプリでバーコードを読み取るか、記載されている数字を自分で入力
4.健康状態リポートのみ同意し、その他(二次利用、保管、調査)は同意しない
返送したあと、検体がいまどこに移送されているか、アプリで追跡できるそうです。DNAの解読作業の進捗も段階を追ってわかるようになっていて、最終結果がわかると、アプリから(オンラインでも可)先祖の家系がおおまかに記されたリポートが閲覧できます。
その先祖からの由来が時系列でわかるようになっていて、このブラウン記者の場合は216人の関連する受検者の履歴から判明した内容が、

ヨーロッパ

北西ヨーロッパ

フランス、ドイツ、イギリス、アイルランド

といった分類でわかったそうです。これらの地域の歴史、人々の移住の経路、風土といった情報だけでなく、その地域へ旅行したい場合に利用できるエアビーアンドビー(Airbnb)の予約方法まで親切にも表示されます。

結局どちらがいい?

どちらもモバイルアプリを軸に利用しやすい、ユーザ自身が健康管理に継続的に生かせるメリットがあるアンセストリーと23アンドミー。
違う点はまず、アンセストリーが家系図を基本としたリポートを強みにしているのに対し、23アンドミーは大まかな情報をわかりやすく、はじめての人にもやさしいグラフィックで教えてくれる事。蓄積したデータの量はどちらも多く、アンセストリーが1600万、23アンドミーが1000万という、信頼の証が数字にも現れています。価格帯では23アンドミーのVIPだと499ドルというハイエンドが目を惹きますが、アンセストリーの100ドル程度の通常価格と、セール時には59ドルなど破格のキャンペーンもあります。
これ以外にもDNA検査キットは多数出ており、https://aki1770.hatenablog.com/entry/2020/07/14/151642
aki1770.hatenablog.com
こちらの記事にもまとまっているので、併せて読んで自身に合った選択肢をじっくり考えてみるのもいいかもしれません。

シングルマザーで、それ以外家族が不明な女性が、ドイツに姉を見つける話

DNA検査を受けて人生が変わる、そういう経験は期待しているのか?といえば簡単には言えない部分があります。人がひとり生まれ、育ち、大人としてそこに暮らしている。それだけで重みがある。それが変わることは、多くの場合、期待に反することかもしれない。でも、それしかない、そう思って検査キットを購入する人もいる。事情があって。そういう話がまたあったので共有します。
オーウェンズボロ・タイムズの記事を日本語に置き換えてみた成果です。続きは
https://www.owensborotimes.com/life/family/2020/06/dna-testing-connects-owensboro-woman-to-half-sister-in-germany/で読むことができます。

オーウェンズボロに住む女性は、自分には姉がいて、その存在を全く知らないままだったが、姉がドイツに居住しているという事実を知ることとなった。遺伝子検査がきっかけで、ランディ・コルドウェルと、クリムゾン・スミスは今年はじめて会うことができた。
コルドウェルは幼い頃、母親を失っており、いまでは子供がいるが、自分自身の先祖を知っておけば娘のために何かなると思って検査を受けた。彼女が買ったのは、23アンドミーのDNAキットで、そこで知った結果は、とくに予想外でもなかった。だが春になって、とある女性からのメッセージが届いた。彼女は片親の同じきょうだいだという。人生の転機だった。
コルドウェルの話では、彼女は育っていく過程で家族をとつぜん失うという経験を重ねてきたという。4歳のときに母親が亡くなり、その後父親だと思っていた男性は2010年に亡くなった。そのため、その両親の手によって彼女は育てられた。ティーンエージャーのとき、ふたりとも逝去してからは、彼女はしばらくのあいだ州から州へと移り住むこととなった。「この時期に私が知ったのは、おとうさんが本当の父親ではなかったということ、でもおかあさんがいないから誰が本当の父親なのかわからなくて、ジョージア州に住んでいたという話をしていた。それだけです」と彼女は言う。
2019年に30歳になった彼女は、シングルマザーであり、自分自身についてもっと知りたいと思った。「DNA検査をしてみれば、自分の家族について、何かヒントのようなものがあるかもしれないと、やっぱり期待しました」と彼女は言う。「なにしろ家族がひとりも生きていないわけだから、それしか方法がなかった。結果が届いて、いとこ、はとこ、遠い親戚の存在はわかったけれど、それ以上は何もわかりませんでした。医療を受けた履歴などはいろいろわかって、それはよかったと思いました」
今年の3月になってコルドウェルは、とある朝、23アンドミーのアプリでドイツの女性からメッセージが届いていることに気づいた。
「『検査を受けてみたら、片親の同じきょうだいがいるって書いてあって』と言われました」とコルドウェルは話す。「ほんとがどうか、わかりますか?と訊かれました」
続きは本文で。

マスク義務化がもたらすのは安全な街? 意外にも副作用が、という研究がありました

マスク義務化はアメリカだけでなく、今週の世界で色々な考えや現象を呼び起こしているようです。
日本ではマスク着用はもはや靴を履いて出かけるのと変わらないほど普及しているように見えます。でも、ホントに意味あるの?
それでコロナウイルス感染は万全! かからなくてOKみたいな意見は見たことがないので、意外とマスクの効果を疑っている人の割合は多いかもしれない、と思いました。
では、アメリカではどうなのか?世界的にはどうなのか?
興味深い記事があったので、読んでみました。
途中まで翻訳してみたので、その成果を共有します。

この記事は著作権フリーのThe Conversation誌の英語コンテンツです。続きは
https://theconversation.com/amp/mandatory-face-masks-might-lull-people-into-taking-more-coronavirus-risks-142951で読むことができます。


Governments all around the world are trying to contain the spread of the coronavirus. Making it mandatory for people to wear face masks is a policy that has gained favor among many national governments and state authorities in the United States.
Yet any policy that attempts to modify people’s behavior – in this case, making mask-wearing a new norm – needs to take into account undesired behavioral adjustments that the policy may bring about. As behavioral economists, we know that without such consideration, the policy is bound to be less efficient than expected.
世界中では、政府がコロナウイルスの蔓延をどうにか鎮めようと手を打ってきた。そのひとつの手として、マスク着用を義務化するという政策があり、各国の政府だけでなく、合衆国内の州政府も進んで採用する例が増えている。
だが、人々の行動を規制するような政策はやはり、マスク着用を日々の習慣に変えるということは、その成果として本来想定していないような習慣も惹き起こしてしまうことがある、と考えることも大事だ。行動経済学ではすでに、副作用として生じる行動の変化を考慮せずに政策を進めても、むしろ効果を弱めてしまうことが明らかになっている。
Here are two behavior alterations to look out for as mask-wearing becomes more commonplace.
When things get safer, people adjust their behavior and act more recklessly. This phenomenon, called the Peltzman effect, has been documented in areas as diverse as driving, sports and financial markets, as well as in drug overdose and pregnancy prevention.
The mechanism is always the same: A safety measure (a seat belt in the case of driving or a government bailout in the case of investing) allows the recipient to take more risk (driving faster or investing in more risky instruments). In the end, the behavior becomes less responsible. In fact, a safety measure can make the activity more dangerous.
たとえば、どういった行動の変化が起きやすいのかを2つ、マスク着用の習慣が惹き起こす作用について紹介しよう。
もう安全だということがわかれば、多くの人は得てして油断をしがちになる。そのように行動してしまうことを、ペルツマン効果という。この現象は、運転、スポーツ、金融市場といった分野でも同様に起きることがわかっている。さらには、薬物の過剰摂取や、避妊といった行動もその一例といえる。
起きるメカニズムはつねに同じで、たとえば運転時にシートベルトをする、投資の世界で政府が救済に乗り出すといった場合でも、セーフティネットの存在じたいが、むしろ危険を顧みずに行動する(速度を出しすぎる、高リスク型の投資をする)といった嗜好を呼び込んでしまう。セーフティネットじたいが、危険な行動を後押ししてしまう実例はけっこうあるわけだ。
It’s easy to imagine how this could be the case with COVID-19 and face masks. Here, going into public spaces is an activity with an associated risk of getting infected. A face mask is a safety measure that is meant to decrease the probability of infection.
But the Peltzman effect will have a detrimental effect on that probability: When people feel safer with a face mask, they ease off on other forms of prevention, such as carefully washing their hands or keeping social distance. In the worst case, the risk of infection could actually increase.
COVID-19にしても、マスク着用の義務化がどう影響するかといった観点で当てはまるのではないか。人が多く集まるところに出かけるということは、ふつうは感染のリスクを高める。マスクを着用すると、そのなかでもセーフティネットとして、確率を下げることに役立つ。
だがペルツマン効果という考え方でいけば、むしろそれ自体が確率を高めるという逆効果もありうる。たとえば、「マスクをしていれば安全」という考えの人が多くなれば、予防に役立つような他の手段をおろそかにしてしまう場合がある。たとえば、入念に手を洗う、ソーシャル・ディスタンスを実施するといった手段だ。ともすれば、それによって感染リスクが高まってしまう。
Behaviorial science suggests, then, that making face masks mandatory must be accompanied by policies that maintain, if not increase, other forms of prevention. In particular, it’s important to educate the public that, on its own, a face mask is not going to prevent COVID-19 if people forget about practices like social distancing and washing hands.
One could imagine a policy that makes not only face masks but also portable hand sanitizer mandatory. Public health education could work on turning mandatory face masks into visual reminders to wash hands frequently.
行動経済学をはじめとする、集団を研究対象にする科学の成果では、マスク着用の義務化は、予防に役立つ手段をこれまでと同じ水準に保つための施策と抱き合わせにしなければ効果がないことがわかってきた。とくに、誤解されやすいのだが、いくらマスクを着用したところで、ソーシャル・ディスタンシングや手洗いの徹底を忘れてしまえばCOVID-19は予防できない、と民衆を啓蒙することがとても大事になってくる。
じゃあ、手指消毒液の義務化もいっしょにしておくか。手洗いの徹底がなければマスク着用の効果は薄い、といった広報をわかりやすくビジュアルにしておくか、といった政策も考えられるだろう。
Wearing masks, not staying home
The Peltzman effect does not paint a complete story of how safety measures change individuals’ behavior.

ステイホームより、マスク着用

ペルツマン効果は、セーフティネットの存在が個人の行動にどう影響するか、すべて説明できる学説ではない。
弊誌が進めてきた調査の結果、べつの社会現象もこれまでに判明している。
続きは本文で。

あとがき

ペルツマン効果は知りませんでした。本来世の中をよくするための取り組み。でも、その取り組みが全部うまく行ってしまえば、世の中がよくなるだけで、よくなった先には「これ以上よくできない」状況が待っているのかもしれない。そんなことを思いながら読んでいました。最後まで読むともっと面白い事が分かってきました。ここでは書き尽くすことができなかったので、次の機会を見つけて書いてみようと思います。