レムデシビルとヒドロキシクロロキン12

前回は抗生物質のなかでも、リファンピシンの作用機序を知るうえで不可欠なRNAポリメラーゼとmRNAのさわりを記載しました。mRNAについて、少し補足する必要を感じましたので、角度を変えながら、核心に近づくのが今回のねらいです。
リファンピシンとあわせて考えたい、レボフロキサシン

レボフロキサシンと組み合わせて検索されたワード

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レボフロキサシンと組み合わせて検索されたワード

Yahooにおいては「錠500mg」「点眼液」「錠250mg」が上位に、Googleにおいては「吐き気」「コロナ」「点眼」が上位に入っています。
個人的に気になったサブワードがありましたので、触れておきます。

「レボフロキサシン インフルエンザ」
「レボフロキサシン クラミジア

レボフロキサシンは、抗生物質です。アジスロマイシンのときクラミジア肺炎のため通販で買おうとしている、関心の向きがあることに気づきました。また、マクロライド系ではインフルエンザ患者の治療にも用いられるという事例も見てきました。レボフロキサシンは、マクロライド系であるアジスロマイシンやクラリスロマイシンと共通項があって、それは「インフルエンザもしくはクラミジアへの抗菌に用いられる」という点です。

ニューキロノン系抗生物質に分類されるレボフロキサシンは、核酸合成阻害薬として扱われています。リファンピシンと同じですね。

リファンピシンとはなにが違うのか?

リファンピシンは、RNAポリメラーゼの役割である、mRNAへの転写というプロセスに干渉します。RNAポリメラーゼは酵素で、DNAがもつ二重らせんの2本のうち1本を複製する工具のようなものですが、ここにリファンピシンがやってくると、その過程が中断することになります。
それに対して、レボフロキサシンはべつの酵素を狙います。DNAジャイレースと、トポイソラメーゼIVです。

この、レボフロキサシンがなぜインフルエンザやクラミジアに用いられるのか? また、「コロナ」への効能があるのか気になっている方が多いのはなぜか?
 
まず、ニューキロノン系は比較的副作用の少ない薬品が多く、治療期間を通じて飲み続けるリスクを考慮すると、予防的に飲むことのできる、守備範囲の広めの傾向があること。

それに加えて、レボフロキサシンにひきつけて言えば、呼吸器感染症の原因となる細菌である肺炎球菌にも効くこと。

注意する点としては、服用によって精神変調や意識障害を起こすことがあって、車の運転など、継続的に危険を回避するための集中力を要する作業に細心の配慮を加えること。

コロナウイルスへの効能はほぼ指摘されていないようですが、検索では上位に入ってくるのは、ニューキロノン系の抗生物質は処方されることが多く、「コロナウイルスにも予防的に効くのでは?」という類推があるのかもしれません。

しかし、コロナウイルスはインフルエンザウイルスとは異なる、しかも細菌とは異なるという決定的な要素があるので、抗菌薬であるニューキロノン系のもつ、副作用がむしろ表面化するおそれを先に考えたほうが無難と思われます。

ヒドロキシクロロキンと併用されたマクロライド系は、抗菌薬なのに、なぜ出番となったのか?

これは、治療薬が病原体のDNAの複製を食い止めるため、「どこ」を阻害するのかによるためです。ニューキロノン系は核酸合成阻害薬ですが、マクロライド系はたんぱく質合成阻害薬です。この違いがやはり大きいので、アジスロマイシンやクラリスロマイシンが用いられたのだと筆者は考えます。

たんぱく質合成阻害薬には、どういった機能があるのか?

細胞のなかには、リボソームという部位があり、このリボソームに薬品が結合すると、細菌は増殖するためのたんぱく質への翻訳ができなくなります。mRNAの遺伝情報を読み取って、たんぱく質を合成する過程を、「翻訳」といいます。これが機能しない=菌は死滅というわけです。

ヒドロキシクロロキンとマクロライド系の併用によってコロナウイルス感染者が回復せず、死亡率が高い結果さえ出てしまったのは、不幸なことかもしれません。しかし、その後の治療ではヒドロキシクロロキンを、重症化より前に投与することで、きわめて効果が高いことも研究論文で発表されています。

www.sciencedirect.com

ということは、ヒドロキシクロロキンはマラリア治療薬という、抗菌薬に分類される一方、マクロライド系は、やはり抗菌薬ですがそれぞれの守備範囲が大きく異なるというわけです。

クロロキン類はマラリヤ治療薬として名前が挙がることの多い、キニーネメフロキン、ファンシダールなどにくらべて、副作用が少ないという特質があります。

2月から3月にかけて入院患者にクロロキン類が投与されたのは、コロナウイルス陽性とはなったものの、症状が軽い、もしくは無症状の場合に偏っていたようで、これはさほど不思議な治療とは思えません。

ごくふつうともみえる治療の一環として、ヒドロキシクロロキンと、マクロライド系が併用された。

細菌への感染は、細菌の増殖を抑える治療薬が必要になりますが、ヒドロキシクロロキンの作用機序にもあったように、「ヘモゾインの生体内結晶生成の阻害」(Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒドロキシクロロキン#作用機序
がまず考えられるので、こちらがヒドロキシクロロキンの守備範囲。

マクロライド系はたんぱく質合成を阻害する。このとき、前回掘り下げたmRNAの問題が出てきます。

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mRNAの姿 Wikipediaより

ここで、話を少し戻します。

リボソームと組み合わせて検索されたワード

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リボソームと組み合わせて検索されたワード


Yahooにおいては、「とは」「の働き」「RNA」が上位に、Googleにおいては、「RNA」「膜」「簡単に」が上位に入っています。

このように、RNAがサブワードとして上位に入っていて、リボソームとRNAの関係に関心をもっている方が多くいることが類推できます。

簡単にいうと、RNAもDNAも「遺伝子」のキーワードに深いかかわりがあります。その、遺伝子の発現にあたって、RNAは転写の設計図のようなものです。転写は細胞のなかにある核酸(これがRNAもしくはDNA)の役割です。
リボソームは、細胞の一部です。これがあることで、DNAがmRNAの転写ができるようになるので、リボソームとRNAは鑿と槌のような一対になる工具に近いかもしれません。

mRNAは、Wikipediaにある図のように、細長いひものような形状で、次々と遺伝情報を読み取っていく作業工程図のようなものです。

こうやってみると、病原体といえども、遺伝子をシステマチックに転写していくという、生物には共通の機構があって、治療薬にもこれを模倣した構造があるわけで、病原体も治療薬も、似たような姿をしていると考えると、理解しやすくなるかもしれません。

ヒドロキシクロロキンとマクロライドの併用は、増殖しているウイルスに、攻撃を加えるというよりも、その相方に名乗り出るという理解が、むしろ近いのかもしれません。もちろん、相方になることによって、治療薬のほうもいずれは死滅するわけですが。

レムデシビルは、抗菌薬ではなく抗ウイルス薬です。そのため、コロナウイルスへの治療に選ばれるのはさほど支障なく進むでしょう。しかし、治療薬は上に述べたとおり、病原体と似た姿をしていて、いずれは死滅するわけですが、のちに生体内でべつの影響を及ぼして、患者の健康を害することもあります。

これが副作用とよばれるもので、レムデシビルの場合、催奇形性が懸念されているのは、やはり遺伝子情報の転写が関わってくるからです。妊婦の方に投与するのは、大きなリスクを伴うことを無視するわけにはいきません。

その一方では、ヒドロキシクロロキンには心臓への負担が強く懸念されるという別の副作用があって、こうしてみていくと、レムデシビルとヒドロキシクロロキンのあいだにあるのは優劣というよりも、別々の方角へ進んでいく民族の差のようなものです。

民族は、似たような姿をして、似たような環境で生き抜くための資質を育てていきます。病原体も、治療薬も似たような姿をしていると述べました。それは、民族が、そういう仕組みであるのとやはり似ているかもしれません。

mRNAの理解と、抗ウイルス薬の理解が相互補完的なものであるとともに、重複的なものであることがぼんやりと見えてきました。

DNAの奥深さと、人間のもつ遺伝情報と、ウイルスや治療薬のもつ構造は、たがいに支えあう、弓と矢のような関係かもしれません。

参考:レムデシビルとヒドロキシクロロキンのツイート数

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レムデシビルとヒドロキシクロロキンのツイート数

レムデシビルは、日本語については「24時間で20件」英語については「2時間で30件」ヒドロキシクロロキンは、日本語については「24時間で70件」英語については「2時間で370件」という数字になりました(8月17日13時)。
みるとレムデシビルの熱がさめ、ヒドロキシクロロキンの熱がましているようです。

あとがき

レムデシビルとヒドロキシクロロキンという課題設定でみると、新型コロナウイルスの流行から派生している大きな変化が、意外なほどに見えやすくなってくるようです。そもそもコロナウイルスの一種と考える治療が、順調に進まないために様々な治療法が提案され、実際に患者の方を通じた研究成果が徐々に出るなか、COVID-19はその宿主を次々と得て生き残っています。そうすると、抗ウイルス薬の定石ではかなわない、なにか新たな将棋の戦法のような考案がどうしても求められるのかもしれません。ヒドロキシクロロキンに副作用があることは、その可能性を大きく狭めるわけではありません。もし併用によって目立った成果が安定して現れるなら、既存の治療薬の分担を超えて、病院治療のあり方を再発明することも可能かもしれません。ただ、そのためには時間との闘いに負けないこと、人類がともに知恵を出し合うことが不可欠なので、そこがむずかしいかもしれない。
個人的にはヒドロキシクロロキンの長いトンネルに、わずかな光明が見えつつあると感じていますが、レムデシビルを用いた治療の普及にも一望千里の広野が見えます。

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